違和感に気づいていたのに、と自分を責めてしまうとき。被害のあとの「自責」と立て直し方の研究

「最初から変だと思っていたのに」「なぜもっと早く離れなかったのか」。つらい関係のあとで、そう自分を責めてしまう人は少なくありません。けれど、責任は傷つけた側にあります。研究では、自分を責める気持ちは苦しさを長引かせやすく、自分に向けるやさしさは立て直しを助ける方向に働くことがわかっています。責めすぎないための考え方と、今日からできる小さな一歩、相談先を整理します。
3行でわかる
- 被害のあとの自責には「あの行動が悪かった」と「自分という人間が悪い」の2種類がある。研究では、どちらも苦しさの強さと結びついていた。
- 結末を知ったあとで振り返ると、当時よりも先が見えていたように感じる。これは「後知恵バイアス」と呼ばれる、誰にでも起きる心の働き。
- 自分を友人のようにいたわる「セルフコンパッション」は、反省をやめることではない。過去より「いま自分で決められること」に目を向けるほうが、回復につながりやすい。
01何が起きているのか
「気づいていたのに」という自責は、被害を受けた人によく見られる反応です。結末を知ったあとの振り返りでは、当時より危険がはっきり見えていたように感じやすくなります。
心理学者のJanoff-Bulman(1979)は、被害のあとの自責を2つに分けました[1]。1つは自分の「行動」を責める自責、もう1つは自分の「性格」を責める自責です。
| 自責の種類 | 心の中の言葉の例 | 向いている先 |
|---|---|---|
| 行動を責める(行動的自責) | 「あのとき会いに行かなければ」「もっと早く別れていれば」 | 変えられる過去の行動 |
| 性格を責める(性格的自責) | 「私は人を見る目がない」「こんな目にあうのは自分がだめだから」 | 変えにくい自分そのもの |
もう1つ、自責を強める心の働きがあります。結末を知ると、「最初からわかっていた」と感じてしまう「後知恵バイアス」です。Roese と Vohs(2012)のレビューによると、人は今わかっている結末に合う情報ばかりを思い出し、出来事を予測できた度合いを高く見積もりがちです[2]。当時の違和感は、ほかのたくさんの出来事に混ざった小さな引っかかりだったはずです。それが今は、くっきりした警告のように見えているのかもしれません。
なぜひどい扱いを受けても離れにくいのかは、トラウマボンディングの記事で整理しています。この記事は、離れたあと、あるいは離れようとしている今の「自分を責める気持ち」を扱います。付き合い始めの違和感にどう動くかは、付き合い始めに違和感を覚えたらの記事にまとめています。
02研究でわかっていること
性格を責める自責は落ち込みと、行動を責める自責も苦しさの強さと結びついていました。一方で、自分にやさしくできる人ほど自責が弱く、苦しさも軽い傾向があります。
Janoff-Bulman(1979)[1]
2つの研究を報告した。1つ目では、落ち込み(抑うつ)のある女子大学生は、ない学生より「性格を責める自責」が多かった。「行動を責める自責」には差がなかった。2つ目では性被害の支援機関に調査し、被害者に最も多い反応は「行動を責める自責」だった。著者は、行動を責めることで「次は防げる」という感覚を保とうとしているのではないかと考えた。
対象: 女子大学生と、性被害の支援機関への調査 / 限界: 1979年の研究で、行動を責めることが役に立つという考えは、のちの研究で支持されなかった(次の研究)。
Frazier(2003)[3]
性被害を受けた女性171人を、被害後4回にわたって追跡した。自分の行動を責める自責は、苦しさ(心理的な苦痛)の強さと結びついていた。最も回復に役立つ方向に働いていたのは、「回復の過程を自分でコントロールできている」という感覚だった。
対象: 性被害を受けた女性171人 / 限界: 恋人からの被害に限った研究ではない。感覚の変化と苦痛の変化が連動することは示したが、介入の効果を試した研究ではない。
Reich ら(2015)[4]
パートナーからの暴力を経験した女性80人を調べた。身体的・心理的・性的な暴力のどれでも、自分を責める気持ちが強い人ほど自己肯定感が低かった。身体的な暴力では、暴力の多さと自責の強さが重なると、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状と強く結びついていた。
対象: パートナーからの暴力を経験した女性80人 / 限界: 人数が少なく、心理的・性的な暴力ではPTSDとの関係ははっきりしなかった。
Hamrick・Owens(2019)[5]
性被害を経験した成人女性207人に調査した。自分をいたわる「セルフコンパッション」が高い人ほど、行動を責める自責も性格を責める自責も弱く、PTSDの症状が軽かった。落ち込みの重さとは、直接にも、性格を責める自責を通しても結びついていた。
対象: 性被害を経験した成人女性207人(オンラインと紙の調査) / 限界: 関連を調べた研究で、セルフコンパッションを高めれば自責が減ると確かめたものではない。
r = −0.54
セルフコンパッションと、心の不調(精神的な症状)の関連の強さ。14研究・20サンプルをまとめたメタ分析で、大きな効果量とされた(MacBeth・Gumley 2012)[6]
マイナスの値は、自分へのやさしさが高い人ほど心の不調が少ない、という向きの関連を表します。ただし研究ごとのばらつきは大きく、どちらが原因かまではわかりません。
Breines・Chen(2012)[7]
4つの実験で、失敗や過ちのあとに自分をいたわるよう促された人を比べた。自分をいたわった人は、過ちを繰り返さない動機が高く、失敗したテストの勉強にも長く時間をかけた。自分を責めないことは、反省をやめることではなかった。
対象: 4つの実験の参加者 / 限界: 日常の失敗や過ちを題材にした実験で、被害を受けた人を対象にした研究ではない。
03自責のサインに気づき、自分を守る小さな一歩
自分を責める言葉に気づいたら、「行動か性格か」を分け、当時の情報だけで見直します。そのうえで、過去ではなく「いま自分で決められること」に目を移します。
次のような考えが何度も浮かぶときは、自責が強くなっているサインです。
- 「自分は人を見る目がない」「だからこんな目にあう」と、自分そのものを責めている。
- 相手の言動より、自分の落ち度ばかりを数えている。
- 「わかっていたのに」と、当時の自分が今と同じ情報を持っていたように考えている。
- 恥ずかしさから、誰にも話せずにいる。
責める言葉を書き出し、「行動」と「性格」に分ける
頭の中の言葉をそのまま紙に書きます。「私はだめだ」のような性格への言葉には印をつけます。研究で落ち込みと結びついていたのは、特にこちらです。
所要 5分
「当時の自分が知っていたこと」だけで見直す
違和感を覚えた時点で、相手がどんな優しい言葉をかけていたか、自分がどんな状況だったかも書き足します。後知恵バイアスは、ほかの説明を考えると弱まることがレビューで示されています[2]。
所要 10分
同じ話を友人から聞いたら、何と声をかけるか考える
大切な友人が同じ体験を打ち明けてきたと想像し、かける言葉を自分あてに書きます。自分をいたわることは、甘やかすことではなく、立て直す力になると考えられています。
所要 5分
「いま自分で決められること」を1つ選ぶ
誰に話すか、眠る時間を守るか、相手の連絡先をどうするかなど、回復のために今日決められることを1つだけ選びます。研究では、過去への自責より、回復の過程を自分で動かせている感覚のほうが苦しさの軽さと結びついていました。
所要 3分
04距離の取り方と相談先
責任は傷つけた側にあり、気づけなかった自分にはありません。内閣府も「暴力をふるわれていい人などひとりもいません」と伝えています。一人で抱えず、相談先を使ってください。
内閣府は、デートDVの被害を受けている人に向けて、「好きだから」「嫌われたくないから」という気持ちが先立ち、自分では暴力と気づけないこともあると説明しています[8]。気づけなかったこと、気づいても離れられなかったことは、多くの人に起きることです。
まだ相手との関係が続いている、あるいは連絡が来て怖いときは、自責に向き合うより先に安全を確保します。離れ方は安全に離れるための記事、記録の残し方はモラハラに気づいたら最初にすることの記事で整理しています。
- DV相談ナビ(#8008): 最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。
- DV相談+(DV相談プラス): 電話は24時間、チャットは12時から22時に受け付けています。男性からの相談にも対応しています[9]。
- 今すぐ危険があるときは、110番に通報してください。
この記事は、特定の人を診断するものではありません。落ち込みや眠れない状態、フラッシュバックが続くときは、医療機関や相談窓口に相談してください。
05よくある質問
被害のあとの自責について、確認できた研究と資料の範囲で答えます。
危険なサインに気づいていたのに付き合い続けたのは、自分が悪いの?
悪いのは傷つけた側です。結末を知ったあとで振り返ると、当時より先が見えていたように感じる「後知恵バイアス」が誰にでも起きます。当時の違和感は、相手の優しさや自分の事情に混ざった小さな引っかかりだったはずです。
自分を責めないと、また同じ失敗をしそうで怖い
自分をいたわることは、反省をやめることではありません。Breines・Chen(2012)の実験では、自分をいたわった人のほうが、過ちを繰り返さない動機が高くなりました。「性格がだめ」ではなく「次はペースを落とす」のように、具体的な行動の学びに変えるのが近道です。
セルフコンパッションとは?自分に甘くすること?
つらいときに、自分を大切な友人のようにいたわる態度のことです。甘やかすのとは違い、失敗や痛みを認めたうえで、責め立てずに受け止めます。14研究のメタ分析では、セルフコンパッションが高い人ほど心の不調が少ない傾向がありました。
自分を責める気持ちは、いつまで続くの?
人によって違い、期間を言い切れる研究は確認できませんでした。ただ、性被害を受けた女性を追跡した研究では、回復の過程を自分で動かせている感覚が強まると、苦しさも軽くなる関係が見られました。気持ちが長く続くときは、相談窓口や医療機関を頼ってください。
出典
- Janoff-Bulman R (1979). Characterological versus behavioral self-blame: inquiries into depression and rape. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/0022-3514.37.10.1798
- Roese NJ, Vohs KD (2012). Hindsight Bias. Perspectives on Psychological Science. https://doi.org/10.1177/1745691612454303
- Frazier PA (2003). Perceived control and distress following sexual assault: a longitudinal test of a new model. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/0022-3514.84.6.1257
- Reich CM, Jones JM, Woodward MJ, Blackwell N, Lindsey LD, Beck JG (2015). Does self-blame moderate psychological adjustment following intimate partner violence? Journal of Interpersonal Violence. https://doi.org/10.1177/0886260514540800
- Hamrick LA, Owens GP (2019). Exploring the mediating role of self-blame and coping in the relationships between self-compassion and distress in females following the sexual assault. Journal of Clinical Psychology. https://doi.org/10.1002/jclp.22730
- MacBeth A, Gumley A (2012). Exploring compassion: a meta-analysis of the association between self-compassion and psychopathology. Clinical Psychology Review. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2012.06.003
- Breines JG, Chen S (2012). Self-compassion increases self-improvement motivation. Personality and Social Psychology Bulletin. https://doi.org/10.1177/0146167212445599
- 内閣府男女共同参画局. 恋人のことを「怖い」「息苦しい」と感じているあなたへ(デートDV). https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/date_dv/victim.html
- 内閣府. DV相談+(DV相談プラス). https://soudanplus.jp/


