モラハラ・ガスライティングかもしれないと気づいたら、最初にすること

「もしかして、これはモラハラなのかもしれない」。そう気づいた瞬間は、怖さや迷いで頭がいっぱいになりやすいものです。最初にすることは、相手を問い詰めることでも、すぐに別れを決めることでもありません。記録を残し、信頼できる1人に話し、安全の計画を立て、公的な窓口を知っておく。この4つの順番を、研究と内閣府の調査から整理します。
3行でわかる
- 内閣府の2023年度調査では、配偶者から被害を受けた人の44.2%が誰にも相談していなかった。いちばん多い理由は「相談するほどのことではない」だった。
- 被害を受けている女性1,152人の調査では、周囲の支えが多い人ほど、不安や抑うつのリスクが低かった。話せる相手は心を守る土台になる。
- 安全計画を一緒に立てる支援は、13件の試験をまとめたレビューで一定の効果が示されている。日本では #8008 で近くの相談センターにつながる。
01何が起きているのか
「気づいたのに動けない」のは珍しいことではありません。被害を受けた人の4割以上が誰にも相談しておらず、その半数は「相談するほどではない」と感じていました。
モラハラ(言葉や態度による精神的な嫌がらせ)やガスライティング(自分の記憶や感覚を疑わせる関わり方)は、殴る・蹴るのように目に見える形をとりません。そのため「自分が大げさなだけかも」と考えて、誰にも話さないまま時間が過ぎがちです。
内閣府は2023年11〜12月、全国の18〜59歳5,000人を対象に調査を行い、2,950人から回答を得ました[1]。結婚したことのある1,838人のうち、配偶者から「人格を否定するような暴言」「交友関係や行き先、電話・メールを細かく監視・制限する」などの心理的攻撃を受けたことがある人は18.0%でした。
44.2%
配偶者から何らかの被害を受けた462人のうち、誰にも相談しなかった人の割合(内閣府 2023年度調査)
相談しなかった204人に理由を聞くと、上位は次のとおりでした(複数回答)。
| 相談しなかった理由 | 割合 |
|---|---|
| 相談するほどのことではないと思った | 52.5% |
| 自分さえがまんすれば、なんとかこのままやっていけると思った | 28.9% |
| 自分にも悪いところがあると思った | 28.9% |
| 相談してもむだだと思った | 19.6% |
一方、相談した人の相談先は「友人・知人」34.8%、「家族や親戚」29.9%が中心でした。警察は3.0%、配偶者暴力相談支援センターや男女共同参画センターは1.9%にとどまっています。身近な人には話せても、公的な窓口まではたどり着きにくい様子がうかがえます。
02研究でわかっていること
話せる相手がいることは心の不調のリスク低下と結びつき、安全計画を一緒に立てる支援には一定の効果が報告されています。ただし効果の大きさには幅があります。
Coker ら(2002)[2]
家庭医の診療所に通う女性1,152人を調べた研究では、心理的なものを含む交際相手からの暴力が、不安・抑うつ・PTSD症状などと結びついていた。そのうえで、被害を受けている女性のなかでは、周囲の支え(ソーシャルサポート)が多い人ほど、不安のリスクが約0.3倍、心の健康が悪いと感じるリスクが約0.5倍と低かった。
対象: アメリカの18〜65歳の女性1,152人(1997〜1999年) / 限界: 一時点の調査で、支えが不調を防いだという因果関係までは示していない。
Rivas ら(2015, コクラン・レビュー)[3]
被害を受けた女性への「アドボカシー」(相談に乗り、安全計画づくりを手伝い、必要な支援先につなぐこと)の効果を、13件のランダム化比較試験、計2,141人分でまとめた。医療機関での短い支援では、うつ状態になる人が少なかった(2件、149人)。一方、短い支援で身体的暴力が減る効果は、3件の統合では確認されなかった。
対象: 15〜65歳の女性2,141人(13件の試験) / 限界: 試験ごとのやり方の差が大きく、多くは人数が少ない。証拠の確かさは「中程度〜非常に低い」と評価されている。
Glass ら(2022)[4]
交際相手からの暴力を経験した女子大学生346人を、安全計画アプリ「myPlan」を使うグループと、一般的なウェブの安全情報を見るグループに分けて12か月追った。どちらのグループも被害と抑うつは減った。myPlanのグループでは、試した安全行動のうち「役に立った」割合が増えるほど、被害の得点が下がっていた。
対象: アメリカ2州・41大学の女子学生346人 / 限界: 両グループとも改善しており、アプリだけの効果は一部の指標に限られる。アメリカの大学生の結果で、そのまま日本に当てはまるとは限らない。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
最初の一歩は「記録」「1人に話す」「安全の計画」の3つです。相手を変えようとする前に、自分の側の足場を固めます。
まだ迷っている段階なら、サインを確かめるところから始めてもかまいません。ガスライティングの初期サインや、モラハラをする人の行動パターンの記事で、研究で報告されている特徴を整理しています。
起きたことを短く記録する
日時、言われたこと・されたこと、そのときの自分の気持ちを1〜2行で書きます。「自分の記憶が正しいのか」と揺らいだときの支えになり、相談するときにも状況を説明しやすくなります。共有しているスマホや、相手がパスワードを知っているアカウントは避けます。
所要 1回3分
信頼できる人に1人だけ話す
全部を説明しなくてかまいません。「最近ちょっと関係がしんどい」の一言からで十分です。上の調査でも、相談先の中心は友人や家族でした。相手に友人や家族と会うのを嫌がられているなら、そのつながりを1本だけでも残しておくことが大切です。
所要 5分の連絡
「もしもの時」を決めておく
怖いと感じたときに連絡する人、行ける場所、持ち出したい物(身分証・保険証・常備薬・通帳など)の置き場所を、紙に書いておきます。安全計画は、窓口の相談員と一緒に作ることもできます。
所要 15分
04距離の取り方と相談先
「DVかどうかわからない」段階でも、公的な窓口に相談できます。#8008に電話すると、近くの配偶者暴力相談支援センターにつながります。
- DV相談ナビ(局番なし #8008): 近くの配偶者暴力相談支援センターにつながる(受付時間は各センターによる)[5]。
- DV相談+(0120-279-889): 内閣府が設けた窓口。電話は24時間、チャットは12時〜22時。「これってDVかな?」という相談も受け付けている[6]。
- 警察相談専用電話(#9110): 緊急ではないが警察に相談したいとき。
- 110番: 命や身体の危険を感じたときは、ためらわずに。
距離を置くか、関係を続けるかを今すぐ決める必要はありません。「なぜ離れられないのか」と自分を責めてしまうときは、トラウマボンディングの研究も参考になります。この記事は相手を診断するものではありません。心身の不調が続くときは、医療機関や相談窓口に相談してください。
05よくある質問
気づいたあとに迷いやすい点を、確認できた資料の範囲で答えます。
モラハラかどうかはっきりしなくても相談していいの?
相談してかまいません。内閣府の「DV相談+」は「これってDVかな?」という段階の相談も受け付けると案内しています。内閣府の調査では、相談しなかった人の52.5%が「相談するほどのことではないと思った」と答えていました。迷っている段階こそ、話して整理する場として使えます。
相手に「それはモラハラだ」と伝えたほうがいい?
伝える前に、まず記録と相談先を確保しておくと安心です。相手の反応は予測できず、言い返されたり、自分の感覚のほうを否定されたりすることもあります。どう伝えるか、伝えるかどうかも含めて、相談窓口と一緒に考えられます。
記録はどこに残せばいい?
相手に見られない場所に残します。共有しているスマホやパソコン、相手がパスワードを知っているアカウントは避け、信頼できる人に預ける、紙に書いて職場や実家に置くなどの方法があります。日時・言われたこと・そのときの自分の気持ちを短く書くだけで十分です。
誰に話せばいいかわからないときは?
DV相談ナビ(#8008)に電話すると、近くの配偶者暴力相談支援センターにつながります。24時間電話を受け付けるDV相談+(0120-279-889)もあります。命の危険を感じるときは110番してください。
出典
- 内閣府男女共同参画局 (2024). 男女間における暴力に関する調査(令和5年度調査)報告書. https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/r05_boryoku_cyousa.html
- Coker AL, Smith PH, Thompson MP, McKeown RE, Bethea L, Davis KE (2002). Social support protects against the negative effects of partner violence on mental health. Journal of Women's Health & Gender-Based Medicine, 11(5). https://doi.org/10.1089/15246090260137644
- Rivas C, Ramsay J, Sadowski L, et al. (2015). Advocacy interventions to reduce or eliminate violence and promote the physical and psychosocial well-being of women who experience intimate partner abuse. Cochrane Database of Systematic Reviews. https://doi.org/10.1002/14651858.CD005043.pub3
- Glass NE, Clough A, Messing JT, et al. (2022). Longitudinal Impact of the myPlan App on Health and Safety Among College Women Experiencing Partner Violence. Journal of Interpersonal Violence. https://doi.org/10.1177/0886260521991880
- 内閣府男女共同参画局. DV相談ナビ(#8008). https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/01.html
- 内閣府. DV相談+(DV相談プラス). https://soudanplus.jp/


