束縛・支配する恋人と別れたいとき、安全に離れるには。別れ際の危険と相談先の研究

束縛や支配の強い恋人と「もう別れよう」と決めたとき、いちばん大事なのは別れ方の上手さではなく、自分の安全です。研究では、支配的な相手との別れの前後に危険が高まりやすいことがわかっています。だからこそ、ひとりで別れ話に臨む前に相談先とつながり、別れた後のつきまといにも備えておく。その進め方を、研究と警察庁・内閣府の資料から整理します。
3行でわかる
- アメリカの研究では、支配の強い相手と同居後に別れた場合、命に関わる被害のリスクが、どちらにも当てはまらない場合の約9倍だった。別れの前後は備えが要る時期。
- 内閣府の2023年度調査では、つきまといの加害者でいちばん多いのは「元交際相手」(23.9%)。別れた後の連絡や待ち伏せも想定しておく。
- 別れ話の前に警察や #8008 に相談し、記録を持って行く。避難先の確保や住所を知られない手続きなど、公的な支援がある。
01何が起きているのか
支配の強い相手との別れは、気持ちの問題だけでは進みません。「相手が別れに同意しない」ことが、別れられない理由の上位に入っています。
束縛や支配は、相手の行動を思い通りにしようとする関わり方です。そのため、相手から離れようとする動きは、支配する側にとって「思い通りにならない」出来事になります。別れ話がこじれやすいのは、あなたの伝え方が悪いからではありません。
内閣府は2023年11〜12月に全国の18〜59歳を対象に調査を行いました[1]。交際相手から何らかの被害を受けたことがある381人のうち、相手と「別れた」人は49.9%。「別れたいと思ったが、別れなかった」人は21.3%でした。
30.9%
「別れたいと思ったが別れなかった」81人のうち、理由に「相手が別れることに同意しなかったから」を挙げた人の割合(内閣府 2023年度調査、複数回答)
| 別れなかった理由(上位) | 割合 |
|---|---|
| 相手が変わってくれるかもしれないと思った | 40.7% |
| 相手が別れることに同意しなかった | 30.9% |
| 別れるとさみしいと思った | 27.2% |
同じ調査では、交際相手から被害を受けた人の18.6%が「命の危険を感じた」と答えています。別れを決めた後は、気持ちの整理と同じくらい、安全の準備が大切になります。
02研究でわかっていること
支配的なふるまいは、深刻な被害の強い危険因子の1つです。支配の強い相手との同居後の別れは、特に危険が高まる組み合わせでした。別れた後のつきまといも、交際中の支配と結びついていました。
Campbell ら(2003)[2]
交際相手に命を奪われた女性220人(遺族らへの聞き取り)と、被害を受けながら生きている女性343人を比べた。「支配の強い相手」と「同居後の別れ」が重なると、命を奪われるリスクは約9倍(調整オッズ比8.98)だった。支配が強いだけ(約2.9倍)、同居後に別れただけ(約3.1倍)の場合より高かった。
対象: アメリカ11都市の女性 / 限界: 最も深刻な結果を調べた研究で、別れた人の多くがこうした被害にあうという意味ではない。日本の状況とは銃の規制なども異なる。
Spencer & Stith(2020, メタ分析)[3]
17件の研究をまとめ、交際相手による殺人の危険因子を比べた。強い危険因子として、武器での脅しや首を絞める行為の過去と並んで、「相手が支配的なふるまいをしていたこと」と「相手が危害を加えると脅していたこと」が挙がった。
対象: 17件の研究(148の効果量) / 限界: 研究ごとに国や対象が異なり、個人の危険度を判定する道具ではない。
Davis ら(2000)[4]
アメリカの大学生を対象にした2つの調査で、約4割(38.5%と44.6%)が、別れた後に少なくとも1つのつきまといに近い行動をしたと答えた。交際中に相手を精神的に追い詰めていた人ほど、別れた後のつきまといが多かった。相手を「支配したい気持ち」は、つきまといに直接結びついていた。
対象: 大学生(男性139人、女性233人) / 限界: 本人の自己申告で、深刻なストーカー行為だけを数えたものではない。
日本でも、つきまといは身近な問題です。内閣府の同じ調査では、特定の相手から執ようなつきまとい等を受けた人は10.2%でした[1]。被害にあった301人に加害者を聞くと、最も多いのは「元交際相手」(23.9%)。27.9%が命の危険を感じたと答えています。警察が受けたストーカー事案の相談等は、2024年に19,567件ありました[5]。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
別れ話の前に、相談先とつながり、記録をそろえ、もしもの時の行き先を決めておきます。別れた後に相手の連絡や接近が続くなら、早めに警察に相談します。
警察庁は、危険性を判断するポイントとして次の行動を挙げています[6]。当てはまるかどうかで相手を決めつけるものではなく、相談するきっかけとして使ってください。
| 時期 | 警察庁が挙げる相手の行動 |
|---|---|
| 交際中 | あなたの行動を細かく知りたがる/思い通りにならないと怒る/暴力や乱暴な言葉がある |
| 交際を断った後・離婚後 | 拒否しているのに電話やメールがくる/一方的に会いに来る、近づいてくる/あなたの周りの人に連絡してくる |
交際中の様子に心当たりがあるなら、束縛と支配欲の違いや友人から引き離す行動の研究も参考になります。危険な相手のサインのチェックでは、気になる行動を選んで関連する研究を確かめられます。
別れ話の前に、相談先に話しておく
「これから別れを伝えようと思っている」と、警察や #8008 の窓口に先に伝えます。相手がどんな人物か、どんな被害があったかを話しておくと、別れ方や安全の確保を一緒に考えてもらえます。
所要 電話1本
記録と証拠を1か所にまとめる
警察庁は、相談の時点で証拠となる物や記録した物があれば持参するよう案内しています[7]。日時と出来事のメモ、メッセージの画面、着信履歴などを、相手が見られない場所に保存します。
所要 30分
「もしもの時」の行き先と連絡先を決める
すぐに行ける場所、連絡する人を紙に書いておきます。相手から逃げたいときは、警察が公費で一時的な避難場所を確保できる場合があり、女性相談支援センターも一時保護を行っています[8]。
所要 15分
別れた後は、住所や居場所を守る手続きを知っておく
市区町村には、ストーカーやDVの加害者が住民票の写しなどを取れないよう制限する「支援措置」があります[8]。スマホの位置情報の共有や、持ち物に入れられた紛失防止タグにも気をつけます。位置情報を無断で知る行為は、ストーカー規制法の対象です[6]。
所要 窓口に問い合わせ1回
04距離の取り方と相談先
危険を感じたら110番。急ぎでなければ警察署や #9110、#8008 に相談できます。どの窓口も「この程度で」とためらわずに使ってかまいません。
- 110番: 命や身体の危険を感じたとき、相手が押しかけてきたとき。
- 警察署・警察相談専用電話(#9110): つきまといや別れた後の連絡について相談したいとき。警察庁は「まずは警察に相談を」と案内しています[7]。
- DV相談ナビ(#8008): 近くの配偶者暴力相談支援センターにつながる。相談、緊急時の安全の確保と一時保護、保護命令制度の情報提供などを行う[9]。
- 女性の人権ホットライン(0570-070-810): 法務局の相談窓口。ストーカー行為や配偶者からの暴力などの相談に応じる[8]。
- 法テラス 犯罪被害者支援ダイヤル(0570-079714): 法的な手続きや相談窓口を知りたいとき[8]。
別れた後も、相手のことを考えてしまったり、戻りたくなったりするのは珍しくありません。その理由はトラウマボンディングの研究で整理しています。まだ別れを決める前の段階なら、気づいた直後にすることから始めてください。この記事は相手を診断するものではなく、法的な判断は警察や弁護士に確認してください。
05よくある質問
別れを決めた後に迷いやすい点を、確認できた資料の範囲で答えます。
束縛する恋人と安全に別れるにはどうすればいい?
ひとりで別れ話に臨む前に、警察や #8008 の窓口に相談しておくことです。研究では、支配の強い相手との別れの前後に危険が高まりやすいと報告されています。記録をまとめ、もしもの時の行き先と連絡先を決めてから進めると安心です。
別れた後もしつこく連絡が来るのはストーカーになる?
拒否しているのに面会や復縁を求める、何度も電話やメッセージを送るといった行為は、警察庁がストーカー規制法の「つきまとい等」の例として挙げています。繰り返される場合は、記録を持って警察に相談できます。当てはまるかどうかの判断は警察に任せてかまいません。
まだ何もされていないのに、警察に相談していいの?
相談してかまいません。警察庁は「自分は大丈夫」と思わず、不安に思うことがあったら何か起こる前に相談することが重要だと案内しています。
男性でも相談できる?
相談できます。内閣府の調査では、つきまとい等の被害は男性の5.7%も経験していました。警察庁が案内する窓口のうち、警察や法テラスは女性に限った窓口ではありません。
出典
- 内閣府男女共同参画局 (2024). 男女間における暴力に関する調査(令和5年度調査)報告書. https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/r05_boryoku_cyousa.html
- Campbell JC, Webster D, Koziol-McLain J, et al. (2003). Risk factors for femicide in abusive relationships: results from a multisite case control study. American Journal of Public Health, 93(7). https://doi.org/10.2105/AJPH.93.7.1089
- Spencer CM, Stith SM (2020). Risk Factors for Male Perpetration and Female Victimization of Intimate Partner Homicide: A Meta-Analysis. Trauma, Violence, & Abuse, 21(3), 527-540. https://doi.org/10.1177/1524838018781101
- Davis KE, Ace A, Andra M (2000). Stalking perpetrators and psychological maltreatment of partners: anger-jealousy, attachment insecurity, need for control, and break-up context. Violence and Victims, 15(4), 407-425. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11288938/
- 警察庁 (2025). 令和7年版 警察白書 第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動(統計2-14 ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等の相談等件数の推移). https://www.npa.go.jp/hakusyo/r07/honbun/html/bb2212000.html
- 警察庁 ストーカー被害防止ポータルサイト. ストーカーとは. https://www.npa.go.jp/cafe-mizen/stoker.html
- 警察庁 ストーカー被害防止ポータルサイト. 被害に悩むあなたへ. https://www.npa.go.jp/cafe-mizen/foryou.html
- 警察庁 ストーカー被害防止ポータルサイト. 相談窓口・支援制度. https://www.npa.go.jp/cafe-mizen/consultation.html
- 内閣府男女共同参画局. 配偶者暴力相談支援センター(DV相談ナビ #8008). https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/01.html


