嘘をつくと右上を見るのは本当か。視線の向きと嘘の通説を研究で検証

「嘘をつくとき、人は右上を見る」。恋愛メディアや心理テクニックの紹介でよく見かける説です。結論から言うと、この説は研究で支持されていません。嘘と本当で、右上や左上を見る回数に差は見つかりませんでした。説を教わった人の見抜く力も上がりませんでした。視線の向きから読めることと読めないことを、研究から切り分けます。
3行でわかる
- 「右上を見たら嘘」は、NLP(神経言語プログラミング)で教えられてきた視線の説が元。提唱者自身は嘘の見分け方とはしていなかった。
- 2012年の3つの実験(面接32人、判定者50人、記者会見の映像52本)では、嘘でも本当でも視線の向きに差はなかった。
- 「目をそらすと嘘」も世界で63.66%の人が信じる通説だが、研究では嘘とほとんど関係しない。人が嘘を見抜ける正解率は平均54%にとどまる。
01何が起きているのか(悩みの正体)
「右上を見たら嘘」は、視線の向きで考えている内容がわかるというNLPの説から広まった通説です。元の説は嘘ではなく「想像」と「記憶」を区別するものでした。
NLP(神経言語プログラミング)は、コミュニケーションや自己改善のための技法の集まりです。その中で、右利きの人は本人から見て右上を見るときは「想像した光景」を、左上を見るときは「実際に見た記憶」を思い浮かべている、と教えられてきました。相手から見ると、この向きは左右が逆になります。
2012年の論文によると、NLPの提唱者たちは「想像した内容」を嘘とは考えていませんでした。それがいつしか「右上を見たら作り話、つまり嘘」という見抜き方として広まり、研修やインターネット上で繰り返し紹介されるようになりました。ある警察向けの記事では「この方法で9割の嘘を見分けられた」と紹介されましたが、その根拠となる実験の出典は示されていませんでした。
なお、視線と考えている内容の関係を確かめる研究は1980年代に多く行われましたが、NLPの説を一貫して支持しなかったと同じ論文はまとめています。目をそらすこと全般については目を合わせずに話す人の心理でも扱っています。
02研究でわかっていること
嘘と本当で、右上や左上を見る回数に差はありませんでした。説を教わっても見抜く力は上がらず、重大な嘘をついた人の会見映像でも同じ結果でした。
視線の向きと嘘の関係を初めて実験で直接確かめたのが、ワイズマンらの研究チームが2012年に発表した研究です。研究チームは、ありがちな反論を一つずつつぶすように、3つの実験を組みました。
Wiseman・Watt・ten Brinke・Porter ほか(2012年)実験1[1]
右利きの32人に、同じ内容について本当のことを話す面接と嘘をつく面接を1回ずつ受けてもらい、計64本の映像で目の動きを数えた。右上・左上を見る回数は、1秒以上の視線でも1秒未満の短い視線でも、嘘と本当の間に差がなかった。たとえば右上への短い視線は、本当のときが1秒あたり0.044回、嘘のときが0.047回だった。
対象: 主に大学生32人(右利きのみ) / 限界: 実験者に頼まれてつく、罰のない軽い嘘での結果。
同(2012年)実験2[1]
50人に実験1の面接映像32本を見せ、嘘か本当かを判定してもらった。うち21人には事前に「右上を見たら嘘」という説を教えた。32本中の正解数は、説を教わった人が平均16.33本、教わらなかった29人が平均16.59本で差はなかった。判定への自信(7段階)も4.65対4.58で変わらなかった。
対象: 18〜73歳の50人 / 限界: 判定に使ったのは実験1の映像のみ。
同(2012年)実験3[1]
行方不明の家族の無事を訴える記者会見の映像52本を分析した。証拠から26本は訴えた本人が嘘をついていた(本人が加害者だった等)とされ、残り26本は本当だったとされるもの。1秒以上右上や左上を見続ける場面は1度もなく、短い視線の頻度にも嘘と本当で差はなかった。
対象: オーストラリア・カナダ・英国・米国などの報道映像52本 / 限界: 映像の長さが限られ、視線の動き自体が少なかった。
Global Deception Research Team(2006年)[2]
58か国の2,320人に「人が嘘をついているとどうやってわかるか」を自由に答えてもらったところ、63.66%が「目をそらす」を挙げた。ほかのどの答えよりもはるかに多く、58か国中51か国で最も多い答えだった。
対象: 調査全体で75か国・43言語 / 限界: 人々が「どう信じているか」の調査で、実際に嘘と関係するかは別の研究で確かめている。
DePaulo ほか(2003年)[3]
嘘をついているときの行動の違いを調べた研究を統合したメタ分析(多くの研究をまとめて分析する方法)。158の手がかりについて1,338の推定値をまとめた結果、嘘つきはやや緊張して見え、話の情報量が少ない傾向はあったが、多くの行動は嘘との関係がないか弱かった。上記2の論文は、目をそらすことも嘘とほとんど関係しないとこの分析を引いて述べている。
対象: 158の手がかり・1,338の推定値 / 限界: 主に欧米の実験研究をまとめたもの。
Bond・DePaulo(2006年)[4]
206の文献、のべ24,483人の判定者を統合したメタ分析で、訓練や道具なしに嘘と本当を見分けられた正解率は平均54%だった。嘘を嘘と見抜けたのは47%、本当を本当と判断できたのは61%。見た目だけより、声が聞けるときの方が正確だった。
対象: 206文献・24,483人の判定者 / 限界: 視線の向きだけを調べた研究ではなく、見抜く力全体の結果。
「目をそらすと嘘」という、もう一つの視線の通説も同じです。世界中で最も信じられている嘘のサインですが、研究ではほとんど関係が見つかっていません。人がしぐさや表情から嘘を見抜ける力はもともと偶然に近く、詳しくはしぐさで嘘は見抜けるのかにまとめています。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
視線の向きから嘘は読めません。目が動くのは考えごとや緊張でも起きる自然な動きです。疑いが生まれたら、しぐさではなく話の中身と事実で確かめます。
- 読めること: 目が動いた瞬間、相手が何かを思い出したり、言葉を選んだりしているかもしれない
- 読めないこと: 右上・左上・目をそらすといった視線の向きから、嘘か本当か
- 注意点: 説を知っていると、当たったときだけ記憶に残り「やっぱり当たる」と感じやすい。研究者は、この思い込み(錯誤相関)が通説が広まる理由の一つではないかと考えている
視線の向きで判断しない
右上を見た、左上を見た、目をそらした、という動きは、嘘と本当で差がないと確かめられている。判断材料から外す。
所要 1分
目が動いたら「考えている」くらいに受け止める
思い出す、言葉を選ぶ、緊張する、照れるなど、目が動く理由はいくらでもある。疑いの根拠にしない。
所要 1分
話の中身と事実を照らし合わせる
嘘の手がかりは、しぐさより話の内容や後から確かめられる事実の方に出やすい。気になる点はメモしておき、事実で確かめる。
所要 5分
気になることは言葉で聞く
しぐさから推測を重ねるより、落ち着いたタイミングで率直に尋ねる方が確かで、関係もこじれにくい。
所要 5分
同じように研究で支持されなかった嘘のしぐさの通説には、嘘をつくと鼻を触るやまばたきが増えるもあります。
04距離の取り方と相談先
視線の向きだけで相手を疑ったり、自分の目の動きを気にしたりする必要はありません。お金や安全に関わる嘘が疑われるときは、専門の窓口に相談できます。
- 相手の視線の向きを「嘘の証拠」として問い詰めない。誤解から関係がこじれるもとになる
- 自分が話しながら目を動かしてしまうのも自然なこと。無理に視線を固定しようとしなくてよい
- 交際相手や知り合いからお金を求められ、話に嘘が疑われるときは、消費者ホットライン(188)や警察相談専用電話(#9110)に相談する
05よくある質問
視線の向きと嘘について、よくある疑問にお答えします。
嘘をつくと右上を見るというのは本当ですか?
研究では支持されていません。2012年の3つの実験では、嘘をつくときと本当のことを話すときで、右上や左上を見る回数に差は見つかりませんでした。実際の重大事件の会見映像でも同じ結果でした。
「右上を見ると嘘」の説はどこから来たのですか?
NLP(神経言語プログラミング)と呼ばれる手法で教えられてきた、視線の向きと考えている内容の関係の説が元になっています。ただし提唱者自身は「想像した内容」を嘘とは見ていませんでした。それが後に嘘の見抜き方として広まりました。
相手が目をそらしたら嘘をついていると考えていいですか?
いいえ。目をそらすのは嘘のサインだという思い込みは世界中で最も多い通説ですが、研究では嘘とほとんど関係しないとされています。考えごとや緊張、照れでも視線は動くため、言葉と行動の積み重ねで判断する方が確かです。
しぐさ・ボディランゲージ索引で「右上を見る」を見る
ほかのしぐさも50種類から調べられます。4択クイズもあります。
出典
- Wiseman, R., Watt, C., ten Brinke, L., Porter, S., Couper, S.-L., & Rankin, C. (2012). The eyes don’t have it: Lie detection and Neuro-Linguistic Programming. PLoS ONE, 7(7), e40259. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0040259
- Global Deception Research Team. (2006). A world of lies. Journal of Cross-Cultural Psychology, 37(1), 60-74. https://doi.org/10.1177/0022022105282295
- DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129(1), 74-118. https://doi.org/10.1037/0033-2909.129.1.74
- Bond, C. F., Jr., & DePaulo, B. M. (2006). Accuracy of deception judgments. Personality and Social Psychology Review, 10(3), 214-234. https://doi.org/10.1207/s15327957pspr1003_2


