目を合わせずに話す人の心理。視線回避と緊張・社交不安の研究

話しているのに、相手がなかなか目を合わせてくれない。「緊張しているのかな」「避けられているのかな」と気になったことはありませんか。結論から言うと、目をそらす理由は大きく3つあります。考えごとの負荷、緊張や社交不安、そして文化的な習慣です。目をそらすこと自体は誰にでもあり、それだけで本音や好き嫌いは読めません。研究から、読めることと読めないことを切り分けます。
3行でわかる
- 難しい質問を考えるときは、誰でも目をそらしやすい。5つの実験で、目をそらすと考える作業の成績が上がることも確かめられている。
- 社交不安が強い人ほど、話す・やりとりする場面で相手の顔を見る時間が減りやすい。61本の論文を整理したレビューでも確認された傾向。
- 日本の参加者は目を合わせる時間が短く、考えるときは下を向く傾向があった。目を伏せるのは失礼ではなく、敬意の習慣である場合もある。
01何が起きているのか(悩みの正体)
目をそらす「視線回避」には、考えるため、緊張を和らげるため、文化の習慣に従うため、という別々の理由があります。見た目は同じでも中身は違います。
相手の目を見ずに話すことを、心理学では「視線回避(gaze aversion)」と呼びます。「目を合わせない人は何か隠している」「自分に興味がない」といった受け取り方をされがちです。けれども研究を見ると、目をそらすのはごく普通の行動です。
人の顔、とくに目は、脳にとって情報量の多い刺激です。難しいことを考えるとき、人はその刺激を一度遮って頭の中の作業に集中しようとします。一方で、人前で強い不安を感じやすい人にとっては、相手の目が「評価されている」と感じさせる刺激になります。さらに、どれくらい目を合わせるのが礼儀かは、文化によっても違います。同じ「目をそらす」でも、理由は一つではありません。
02研究でわかっていること
目をそらす頻度は、質問の難しさで大きく変わります。社交不安が強い人では顔を見る時間が減る傾向があり、目を合わせる量や向きには文化差もあります。
Glenberg・Schroeder・Robertson(1998年)[1]
5つの実験で、ほどほどに難しい質問をされると人は目をそらしやすく、その頻度は考える作業の難しさと結びついていた。この行動は気まずさだけでは説明できず、目をそらすと成績が上がるという「役に立つ」行動でもあった。
対象: 5つの実験 / 限界: 実験室の質問課題での結果で、恋愛や日常会話の場面を直接調べたものではない。
Doherty-Sneddon・Phelps(2005年)[2]
8歳の子ども36人に、対面またはビデオ通話で質問をした。目をそらす回数は対面の方が多かったが、どちらの条件でも質問の難しさが強く影響していた。著者らは、目をそらす主な働きは考える負荷の調整であり、社会的な緊張はそれに加わる要因だと結論づけている。
対象: 8歳の子ども36人 / 限界: 子どもの学習場面での結果で、大人の会話にそのまま当てはまるとは限らない。
McCarthy・Lee・Itakura・Muir(2006年)[3]
カナダ・トリニダード・日本の参加者に、答えを知っている質問と、考えないと答えられない質問をした。答えを知っている質問で目を合わせていた時間は、トリニダード88%、カナダ64%、日本54%。考える質問ではどの国でも50%未満に下がり、国による差はなかった。考えるとき、カナダとトリニダードの参加者は上を、日本の参加者は下を見る傾向があった。
対象: 3か国の成人各10人(計30人) / 限界: 1回の面接形式の実験で、参加者数が少ない。
Akechi ほか(2013年)[4]
フィンランド人20人と日本人20人に、目を合わせてくる実在の人物の顔を見てもらった。目が合うと注意が向くという体の反応は両国で同じだった。一方で日本の参加者は、目を合わせてくる顔を、フィンランドの参加者より怒っている・近づきにくい・不快だと評価した。
対象: 大学生40人 / 限界: 表情は無表情の1人の人物で、会話中の評価ではない。
Chen・van den Bos・Westenberg(2020年)[5]
61本の論文を整理したシステマティックレビュー。社交不安症と診断された大人は、画面の顔を見る課題、スピーチ、実際のやりとりのどれでも顔を見るのを避ける傾向があった。診断はないが社交不安が高めの大人では、スピーチや実際のやりとりでは避ける傾向があったが、画面の顔を見るだけの課題では見られなかった。こうした回避は思春期ごろから現れるとみられる。
対象: 61本の論文 / 限界: 子どもや10代の研究は少なく、発達の流れはまだはっきりしない。
Moukheiber ほか(2010年)[6]
社交不安症の26人と、年齢・性別をそろえた24人に表情の写真を見せ、視線の動きを測った。社交不安症の人は、目のあたりを見る回数も時間も少なく、症状が重いほど目を避ける程度も大きかった。
対象: 社交不安症26人・比較群24人 / 限界: 写真を見る課題で、会話中の視線とは条件が異なる。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
目をそらすことから読めるのは「今、考えている・緊張している・その場の習慣に従っている」のいずれかまでです。嘘や好き嫌いは読めません。
- 考えごとのサイン: 質問された直後や、答えを探しているときに目をそらし、話し終わると戻ってくる
- 緊張・不安のサイン: 話す場面や初対面でずっと目が合わず、慣れた話題や落ち着いた場では少しずつ合うようになる
- 習慣のサイン: 目上の人の前や改まった場で目を伏せる。日本では敬意の表れとされることもある
- 読めないこと: 嘘をついているか、自分を嫌っているか、好意があるか
「どのタイミングで」そらすかを見る
質問の直後だけなら、答えを考えている可能性が高い。そらしたこと自体より、いつそらしたかに注目する。
所要 1分
その人の普段と比べる
もともと目を合わせるのが少ない人もいる。初対面の印象だけで判断せず、慣れた場での様子と比べる。
所要 3分
見つめすぎない
じっと目を見続けると、相手によっては圧迫感になる。並んで歩く、横に座るなど、目が合いすぎない位置で話すのも一つの方法。
所要 2分
気持ちは言葉で確かめる
避けられているのか不安なときは、視線から推測を重ねず、落ち着いたタイミングで率直に聞いてみる。
所要 5分
04距離の取り方と相談先
目をそらす相手を責める必要も、目を見られない自分を責める必要もありません。人前での不安が強く、生活に支障が出ているときは専門の窓口に相談できます。
- 相手が目を合わせないことは「考えているか、緊張しているかもしれない」の目安にとどめ、嘘や拒絶の証拠として扱わない
- 自分が目を見て話せないときは、相手の眉間や口元のあたりを見る、手元の資料を一緒に見るなど、負担の少ない形で会話を続ければよい
- 人前に出る場面への強い不安が長く続き、仕事や学校、人付き合いに困っているときは、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や医療機関に相談する。社交不安症かどうかの判断は専門家が行う
05よくある質問
目を合わせずに話す人について、よくある疑問にお答えします。
目を合わせてくれないのは、嫌われているからですか?
そうとは限りません。研究では、難しいことを考えるときには誰でも目をそらし、緊張や文化的な習慣でも視線は減ります。目をそらすこと一つから好き嫌いは判断できないため、会話の内容や行動の積み重ねで確かめる方が確かです。
人の目を見て話せないのは、社交不安症ですか?
目を見て話せないことだけで社交不安症とは言えません。診断は医師などの専門家が、日常生活への支障の大きさなども含めて判断します。人前での強い不安が続き、生活に困っているときは、医療機関や相談窓口に相談してください。
日本人は目を合わせないというのは本当ですか?
研究でも、日本の参加者は答えを知っている質問に答えるとき、目を合わせていた時間がカナダやトリニダードより短い傾向がありました。日本では相手の目をじっと見ることを失礼と感じる習慣があり、目を伏せるのは敬意の表れとされることも背景にあると考えられています。
出典
- Glenberg, A. M., Schroeder, J. L., & Robertson, D. A. (1998). Averting the gaze disengages the environment and facilitates remembering. Memory & Cognition, 26(4), 651-658. https://doi.org/10.3758/bf03211385
- Doherty-Sneddon, G., & Phelps, F. G. (2005). Gaze aversion: A response to cognitive or social difficulty? Memory & Cognition, 33(4), 727-733. https://doi.org/10.3758/bf03195338
- McCarthy, A., Lee, K., Itakura, S., & Muir, D. W. (2006). Cultural display rules drive eye gaze during thinking. Journal of Cross-Cultural Psychology, 37(6), 717-722. https://doi.org/10.1177/0022022106292079
- Akechi, H., Senju, A., Uibo, H., Kikuchi, Y., Hasegawa, T., & Hietanen, J. K. (2013). Attention to eye contact in the West and East: Autonomic responses and evaluative ratings. PLoS ONE, 8(3), e59312. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0059312
- Chen, J., van den Bos, E., & Westenberg, P. M. (2020). A systematic review of visual avoidance of faces in socially anxious individuals: Influence of severity, type of social situation, and development. Journal of Anxiety Disorders, 70, 102193. https://doi.org/10.1016/j.janxdis.2020.102193
- Moukheiber, A., Rautureau, G., Perez-Diaz, F., Soussignan, R., Dubal, S., Jouvent, R., & Pelissolo, A. (2010). Gaze avoidance in social phobia: Objective measure and correlates. Behaviour Research and Therapy, 48(2), 147-151. https://doi.org/10.1016/j.brat.2009.09.012
- Schulze, L., Renneberg, B., & Lobmaier, J. S. (2013). Gaze perception in social anxiety and social anxiety disorder. Frontiers in Human Neuroscience, 7, 872. https://doi.org/10.3389/fnhum.2013.00872