嘘をつくと鼻を触るのは本当か。「ピノキオ効果」の通説を研究で検証

「嘘をつくと人は鼻を触る」。ボディランゲージの話題でよく聞く説です。結論から言うと、これを支える研究はほとんどありません。よく引き合いに出されるのは1人の証言映像を分析した事例研究で、多くの研究をまとめたメタ分析では、顔を触るしぐさと嘘のあいだに意味のある関係は見られませんでした。「ピノキオ効果」と呼ばれる研究もありますが、それは赤外線カメラで測る鼻の温度の話で、目に見えるしぐさの話ではありません。
3行でわかる
- 「嘘で鼻を触る」の根拠としてよく挙がるのは、1人の証言映像を1人の評価者が数えた事例研究。著者自身が「一つのサインで嘘つきとは決まらない」と書いている。
- 120のサンプルを統合したメタ分析では、顔を触る・こするしぐさと嘘の関係は効果量0.08で、統計的に意味のある差ではなかった。
- 研究でいう「ピノキオ効果」は、嘘をつく間に鼻の温度が下がる傾向を赤外線カメラで測ったもの。肉眼では見えず、実験室の結果にとどまる。
01何が起きているのか(悩みの正体)
「鼻を触る=嘘」は広く知られた通説ですが、研究で確かめられた法則ではありません。鼻を触る動作は、かゆみや癖でも起こる日常の動きです。
話している相手が、ふと鼻をこする。それだけで「今の話、本当かな」と気になってしまうことがあります。物語のピノキオは嘘をつくと鼻が伸びました。そのイメージも手伝って、「嘘と鼻」の組み合わせは覚えやすく、広まりやすい説です。
ところが、しぐさの専門家の間でもこの説は否定されています。元FBI捜査官で、ボディランゲージの本で知られるジョー・ナヴァロ氏は、ナショナルジオグラフィックの取材に「ピノキオ効果は存在しない」と答えています[4]。口を触る、鼻を覆うといった動作は、嘘ではなくストレスや不安、緊張のサインとして受け止めるべきだ、という趣旨です。ただしこれは長年の取り調べ経験にもとづく見解で、それ自体が研究データではありません。以下では、研究で何がわかっているかを確認します。
02研究でわかっていること
鼻を触るしぐさが嘘で増えると示したのは1人だけの事例研究です。多くの研究を統合すると、顔を触るしぐさと嘘の間に明確な関係は見られませんでした。
Hirsch・Wolf(2001年)[1]
クリントン元米大統領の大陪審証言から、一部がのちに虚偽とされた23分間の映像を選び、嘘の手がかりとされる23のサインで数えた。鼻を触る動作は、同じ証言の別の部分(11分)と支持者向けの演説(5分)では1分あたり0回、この23分間では1分あたり0.26回だった。ただし、23のサインを一つずつ検定すると、意味のある差が出たのは「手ぶりが減る」と「言い間違い」の2つだけで、鼻を触る動作は含まれていなかった。
対象: 1人の公開映像(評価者は共著者1人) / 限界: 1人だけの事例研究。著者ら自身が「一つのサインで嘘つきとは決まらない」「1回の発言にサインがあるだけでは何も証明しない」と書いている。
DePaulo ほか(2003年)[2]
120の独立したサンプルから、158種類の手がかりについて1,338の結果を統合したメタ分析(多くの研究をまとめて分析する方法)。顔を触る・こする・髪をいじる「顔のそわそわ」は効果量0.08で、95%信頼区間が−0.09〜0.25とゼロをまたぎ、嘘との意味のある関係は確認できなかった。体をかくなどの「自分の体へのそわそわ」は−0.01だった。著者らは、そわそわした動作と嘘には明確な関係がないとまとめている。
対象: 120サンプル・158の手がかり / 限界: 鼻だけを分けた集計はない。鼻を触る動作は「顔のそわそわ」に含まれる形で調べられている。
Moliné ほか(2017年)[3]
スペイン・グラナダ大学などのチームが、嘘をつく人の顔と手を赤外線カメラ(サーモグラフィー)で撮影した。嘘をつく間、鼻と手の温度は下がる傾向があった。手を冷水で冷やしたあとの温度の戻り方も組み合わせた実験では、嘘の判定の正解率は85%、誤って嘘と判定した割合は25%だった。
対象: 3つの実験室実験 / 限界: 専用カメラで測る温度の変化で、目に見えるしぐさではない。研究チームはこれを「ピノキオ効果」と呼んでいるが、鼻を触る動作とは別の話。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
鼻を触るしぐさから読めるのは、せいぜい「今、緊張や気まずさがあるかもしれない」までです。嘘かどうかは、話の中身と事実で確かめます。
- 読めること: 気持ちが動いた可能性はある。ナヴァロ氏も、こうした動作は嘘ではなく緊張や不安のサインとして受け止めるべきだと述べている(経験にもとづく見解)
- 読めないこと: その人が嘘をついているかどうか。鼻のかゆみ、花粉症、癖など、理由はいくらでもある
- 注意点: 研究でいう「ピノキオ効果」は温度の変化で、肉眼では確認できない
しぐさ一つで結論を出さない
鼻を触ったのを見ても、その場で「嘘だ」と判断しない。論文の著者自身が、一つのサインで嘘つきとは決まらないと書いている。
所要 1分
体の事情を先に考える
季節の花粉、乾燥、マスクのずれ、もともとの癖。鼻に手がいく理由として、まずこちらを疑う。
所要 1分
話の中身を確かめる
気になる話は、日時・場所・誰と、など確かめられる事実に落として聞き直す。しぐさより、確認できる情報の方が当てになる。
所要 3分
お金や契約が絡むなら、その場で決めない
相手の態度で信用を決めず、書面や公式の情報で裏を取ってから判断する。
所要 5分
04距離の取り方と相談先
鼻を触るしぐさを理由に相手を責めるのは避けましょう。だまされているかもしれないと感じたら、しぐさではなく事実をそろえて専門の窓口に相談します。
- 相手のしぐさは「緊張しているのかも」の目安にとどめ、嘘の証拠として問い詰めない。本当のことを話している人を傷つけるおそれがある
- 自分が鼻を触る癖を気にしすぎる必要もない。研究では、顔を触る動作と嘘に明確な関係は見つかっていない
- お金や契約の話で不安があるときは消費者ホットライン(188)、詐欺やつきまといなど身の危険を感じるときは警察相談専用電話(#9110)に相談する
05よくある質問
鼻を触るしぐさと嘘について、よくある疑問にお答えします。
話しているときに鼻を触る人は、嘘をついているのですか?
そうとは言えません。多くの研究をまとめたメタ分析では、顔を触る・こするしぐさと嘘の間に意味のある関係は確認されませんでした。鼻を触るのは、かゆみや癖、緊張でも起こる日常的な動作です。
「ピノキオ効果」とは何ですか?
研究で使われる「ピノキオ効果」は、嘘をつく間に鼻の温度が下がり、額の温度が上がる傾向のことです。赤外線カメラで測るもので、目に見えるしぐさではありません。実験室での結果で、日常の会話で使える方法ではありません。
「嘘をつくと鼻を触る」という説はどこから来たのですか?
根拠としてよく挙がるのは、クリントン元米大統領の証言映像を分析した2001年の事例研究です。ただし1人だけの分析で、鼻を触る動作の差は統計的に確かめられていません。著者ら自身も、一つのサインで嘘つきとは決まらないと書いています。
しぐさ・ボディランゲージ索引で「鼻を触る」を見る
ほかのしぐさも50種類から調べられます。4択クイズもあります。
出典
- Hirsch, A. R., & Wolf, C. J. (2001). Practical methods for detecting mendacity: A case study. Journal of the American Academy of Psychiatry and the Law, 29(4), 438-444. https://jaapl.org/content/29/4/438
- DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129(1), 74-118. https://doi.org/10.1037/0033-2909.129.1.74
- Moliné, A., Gálvez-García, G., Fernández-Gómez, J., De la Fuente, J., Iborra, O., Tornay, F., Mata Martín, J. L., Puertollano, M., & Gómez Milán, E. (2017). The Pinocchio effect and the Cold Stress Test: Lies and thermography. Psychophysiology, 54(11), 1621-1631. https://doi.org/10.1111/psyp.12956
- Bliss, D. (2023). Can you really tell if someone is lying? Here's what the experts say. National Geographic(ジョー・ナヴァロ氏の発言を含む). https://www.nationalgeographic.com/magazine/article/physical-signs-of-lying
- University of Granada (2018). The 'Pinocchio effect': detecting when a person is lying. https://canal.ugr.es/noticia/pinocchio-effect-detecting-when-a-person-is-lying/


