作り笑いと本物の笑顔は見分けられるか。研究でわかった正解率と、見抜くコツ

商談や接客、初対面の場面で「この笑顔は本物だろうか」と気になったことはないでしょうか。目じりにシワが寄る「デュシェンヌ・スマイル」は、長らく本物の笑顔の証とされてきました。ですが研究では、その見分け方自体に思わぬ落とし穴があることがわかってきています。何が読み取れて、何が読み取れないのかを、研究から順番に見ていきます。
3行でわかる
- 73人を対象にした実験で、笑顔の見た目だけで本物か作り笑いかを当てた正答率は57〜58%と、五分五分に近い水準にとどまった。
- 目じりのシワ(デュシェンヌ・マーカー)は、作り笑いでも56〜83%の割合で現れることが複数の研究で確認されており、目もとだけで本物と判定するのは危うい。
- 68人を対象にした実験では、口の動きに注目する訓練を受けたグループの正答率が78.3%まで上がり、目の動きに注目したグループの60.6%を上回った。
01何が起きているのか(悩みの正体)
「目じりのシワ=本物の笑顔」という通説は、研究ではそこまで単純ではないことがわかっている。
作り笑いをうまく隠せる人を前にすると、なんとなく「これは本物の笑顔だろうか」と疑いたくなることがあります。心理学では、目の周りの筋肉(眼輪筋)が収縮して目じりにシワが寄る笑顔を「デュシェンヌ・スマイル」と呼び、長らく本物の喜びの証とされてきました。ただし近年の研究では、この目じりのシワが作り笑いでも高い割合で現れることや、そもそも人がその場で本物と作り笑いを見分ける精度自体があまり高くないことが示されています。見た目の印象だけで判断すると、思わぬ勘違いをしてしまう可能性があるのです。
02研究でわかっていること
人が笑顔の見た目だけで本物・作り笑いを当てる精度は五分五分に近く、目じりのシワの有無も万能の指標ではない。
Perusquía-Hernández・Ayabe-Kanamura・Suzuki(2019年)[1]
41人に自然な笑顔と意図的な作り笑いの両方を作ってもらい、その映像を73人に見せて「本物か作り笑いか」を判定してもらった実験。作り笑いを正しく作り笑いと判定できた割合は57%、自然な笑顔を正しく自然な笑顔と判定できた割合は58%で、当てずっぽうで答えた場合の確率(50%)に近い結果だった。一方、顔の筋肉の電気信号(表情筋電図)を使った自動判定では、約91〜94%の精度で見分けられた。
対象: 笑顔を作る人41人・判定する人73人 / 限界: 映像を見て判定する実験であり、実際に対面して会話する場面での見分けやすさとは異なる可能性がある。
Girard・Cohn・Yin・Morency(2021年)[2]
目じりのシワ(デュシェンヌ・マーカー)が、本人が実際に感じているポジティブな感情をどれだけ言い当てられるかを検証した研究。目じりのシワの有無だけでは、本人が報告した「うれしさ」の強さのばらつきのうち、説明できたのは27%程度にとどまった。ほかの研究でも、作り笑いの条件で56〜83%の割合でデュシェンヌ・マーカーが現れると報告されており、目じりのシワは「強い笑顔」の指標にはなっても、本物か作り笑いかを確実に分ける指標とは言えないとしている。
対象: 笑顔の大規模データベースを用いた分析 / 限界: 目じりのシワという1つの指標に絞った検証であり、表情全体の動きを総合的に見た場合の精度とは別の話。
Ruan・Liang・Hong・Yan(2020年)[3]
大学生68人を対象に、「目の動き(デュシェンヌ・マーカー)に注目する」訓練と「口の動きに注目する」訓練のどちらかを受けてもらい、その後に本物と作り笑いを見分ける課題を行った実験。訓練前は両グループの正答率に差がなかったが、訓練後は口の動きに注目したグループの正答率が78.3%まで上がり、目の動きに注目したグループの60.6%を上回った。
対象: 大学生68人(18〜27歳) / 限界: 短時間の訓練による効果であり、日常会話でとっさに見分ける場面にそのまま当てはまるとは限らない。
Schindler & Trede(2021年)[4]
「仲間外れにされた直後は、本物と作り笑いを見分ける力が上がる」とした過去の研究を、201人を対象に再検証した追試研究。仲間外れにされた条件は、何もない対照条件よりは見分ける力がやや高かったが、仲間に入れられた条件との間には差が見られず、全体としては元の研究ほどはっきりした効果は確認されなかった。
対象: 成人201人 / 限界: 追試研究であり、「仲間外れが見分ける力を高める」という説には、まだ議論の余地が残る。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
目じりのシワだけで判断せず、口の動きや、笑顔が出てくる速さにも目を向けると、勘違いを減らせる可能性がある。
「目じりのシワ」だけで判断しない
作り笑いでも目じりにシワが寄ることは珍しくないという研究結果があります。目もとの印象だけで「本物だ」と決めつけないようにしましょう。
所要 1分
口元の動きにも注目する
口の動きに注目する訓練を受けた人のほうが、見分ける正答率が上がったという実験結果があります。口角が上がる速さや、笑顔が終わったあとの戻り方にも目を向けてみましょう。
所要 数十秒
「一発判定」に自信を持ちすぎない
見た目だけで本物か作り笑いかを当てる精度は、研究では五分五分に近い水準でした。1回の笑顔で相手の気持ちを断定せず、会話全体の様子とあわせて判断する姿勢が助けになります。
所要 継続的に意識
04距離の取り方と相談先
笑顔の解釈に自信が持てないときは、笑顔だけで相手の気持ちを決めつけず、言葉や態度の積み重ねで様子を見ていくことが助けになる。
- 「作り笑い=悪意がある」とは限りません。接客や社交の場では、丁寧さや気遣いから笑顔を作ることも多くあります。
- 笑顔の解釈に自信が持てないときは、表情だけでなく、話す内容や声のトーンなど、他の手がかりもあわせて見ましょう。
- 相手の笑顔の裏に不安や違和感を感じ続けるなど、人間関係そのものに悩みが続く場合は、一人で抱え込まず信頼できる人や専門家(心療内科・カウンセリング等)に相談してください。
05よくある質問
目じりにシワが寄っていれば、本物の笑顔と考えていいですか?
研究では、作り笑いでも目じりにシワが寄ることが珍しくないと報告されています。目じりのシワだけを根拠に「本物だ」と判定するのは、慎重になったほうがよさそうです。
訓練すれば、誰でも笑顔を見分けられるようになりますか?
大学生を対象にした実験では、口の動きに注目する訓練を受けたグループの正答率が上がったと報告されています。ただしこれは実験室での短時間の訓練の結果であり、誰でも・どんな場面でも同じように見分けられるようになるとまでは言えません。
出典
- Perusquía-Hernández, M., Ayabe-Kanamura, S., & Suzuki, K. (2019). Human perception and biosignal-based identification of posed and spontaneous smiles. PLOS ONE, 14(12), e0226328. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0226328
- Girard, J. M., Cohn, J. F., Yin, L., & Morency, L.-P. (2021). Reconsidering the Duchenne Smile: Formalizing and Testing Hypotheses About Eye Constriction and Positive Emotion. Affective Science, 2(1), 32-47. https://doi.org/10.1007/s42761-020-00030-w
- Ruan, Q.-N., Liang, J., Hong, J.-Y., & Yan, W.-J. (2020). Focusing on Mouth Movement to Improve Genuine Smile Recognition. Frontiers in Psychology, 11, 1126. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.01126
- Schindler, S., & Trede, M. (2021). Does Social Exclusion Improve Detection of Real and Fake Smiles? A Replication Study. Frontiers in Psychology, 12, 626087. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.626087