唇をぎゅっと結ぶのはストレスのサインか。唇が消えるしぐさを元FBI捜査官の説と研究で検証

話している相手が、ふと唇をぎゅっと結んだり、唇を内側に巻き込んで見えなくしたりする。「何か不満があるのかな」「隠しごとかな」と気になったことはありませんか。結論から言うと、唇を結ぶ・引き締める動きは、緊張や照れ、言葉をのみ込む場面で増えやすいしぐさです。ただし研究で見つかった傾向は小さく、嘘や本音の中身を読み取る証拠にはなりません。元FBI捜査官の説と研究を並べて、読めることと読めないことを切り分けます。
3行でわかる
- 元FBI捜査官のジョー・ナヴァロ氏は「ストレスを感じると唇が消えるように薄くなる」と説く。ただし本人も、それ自体は嘘の証拠ではないと書いている。
- 120サンプルを統合したメタ分析では、嘘をつく人は唇を押し付ける動きがわずかに多かった。効果量は0.16と小さい。
- 唇を結ぶ動きは、照れて笑いをこらえるときや、ストレス課題での心拍の上昇とも結びつく。原因は1つに決められない。
01何が起きているのか(悩みの正体)
「唇が消える」とは、唇をぎゅっと押し付けたり、口の中に巻き込んだりして、唇が細く見えなくなる動きのことです。元FBI捜査官が「緊張のサイン」として広めた考え方です。
この説を広く紹介しているのが、元FBI捜査官のジョー・ナヴァロ氏です。著書『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』で知られています。ナヴァロ氏は自身のサイトで、人はストレスを感じると唇が小さくなり、強いストレスでは唇を押し付けたり口の中に引き込んだりして「文字どおり消える」と書いています。唇を噛む動作も、唇を結ぶ動作と同じく、緊張した自分を落ち着かせる方法の一つだとしています。
注目したいのは、ナヴァロ氏自身が「唇を結ぶ・唇が消える動きは、それだけで嘘を示すものではない。示すのは苦痛や緊張だ」と明記している点です。「唇を結んだら嘘」という話は、本人の説よりも強い言い方で広まっています。また、ナヴァロ氏の説は長年の捜査経験にもとづく観察で、実験で確かめた研究ではありません。そこで、研究ではどこまで確認できるのかを見ていきます。
02研究でわかっていること
唇を押し付ける・引き締める動きは、緊張や照れ、嘘の場面でわずかに増える傾向があります。ただしどの研究でも効果は小さく、1つの意味には決められません。
DePaulo ほか(2003年)[2]
嘘をつく人とつかない人の行動を比べた120のサンプル、158種類の手がかりを統合したメタ分析(多くの研究をまとめて分析する方法)。「唇を押し付ける」動きは、嘘をつく人の方がわずかに多かった。効果量は0.16で、4つの推定値・のべ199人にもとづく。「口が重くなる」系の手がかりで統計的に確かと言えたのは、これ1つだった。
対象: 120の独立サンプル(158の手がかり、1,338の推定値) / 限界: 効果は小さく、研究ごとの結果のばらつきも統計的に大きかった。1人の唇の動きから嘘を判定できる強さではない。
Keltner(1995年)[3]
指示どおりに表情を作る課題の直後、「照れた」と答えた人の表情35件と「面白かった」と答えた人の表情28件を比べた。笑いを抑えようとする口元の動きのうち、唇を押し付ける動きは、照れた人で82%、面白がった人で54%に見られた。照れた人は目をそらし、顔をそむける動きも多かった。
対象: 実験参加者の表情(照れ35件・面白さ28件) / 限界: 照れの表情を調べた研究で、ストレスそのものを測ってはいない。唇を結ぶ動きが「笑いをこらえる」場面でも出ることを示す。
Blasberg ほか(2023年)[4]
62人に、人前でのスピーチと暗算を課す標準的なストレス課題を受けてもらい、顔の筋肉の動きを動画から解析した。唇を引き締める動き(リップタイトナー)が多い人ほど、心拍の上がり方が大きい傾向があった。一方で、口元の動きは話している量に左右されるため、著者ら自身が「慎重に扱うべき」と書いている。
対象: 成人62人(予備的研究) / 限界: この関係は一部の参加者に引っ張られていた。顔の動きからストレスを予測する力は、全体として低かった。
Mohiyeddini・Semple(2013年)[5]
健康な成人男性42人に、同じく人前でのスピーチなどのストレス課題を受けてもらった。体をかく・唇を噛む・顔を触るといった「転位行動」が多い人ほど、その時点の不安は高かった。それと同時に、課題後に感じたストレスは低かった。
対象: 成人男性42人(平均28歳) / 限界: 唇を噛む動作だけを分けた分析ではない。男性のみの相関研究で、因果関係までは確定できない。
ナヴァロ氏が挙げる「血管が縮んで唇が薄くなる」という説明については、唇の見た目の変化を直接測った研究は見当たりませんでした。研究で確認できるのは、唇の「動き」が緊張や照れと結びつくところまでです。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
唇を結ぶしぐさから読めるのは「今、何かをこらえているかもしれない」までです。それが緊張か、照れか、不満か、嘘かは、しぐさだけでは区別できません。
- 読めること: 普段より唇を結ぶ・噛む動きが増えたら、緊張や、言葉・笑いをこらえている可能性がある
- 読めないこと: 嘘をついているか、何に不満があるか、本音の中身
- 別の理由: 照れて笑いをこらえる、考えごと、怒りをのみ込む、唇の乾燥や癖など、理由はいくつもある
その人の普段と比べる
もともと唇を結ぶ癖のある人もいる。回数そのものより、いつもより増えたかどうかに注目する。
所要 1分
どの話題で出たかを振り返る
特定の話題で唇を結んだなら、その話題が相手にとって言いにくいことなのかもしれない、という程度の手がかりにとどめる。
所要 3分
「何か言いたいことはある?」と聞く
疑って問い詰めるより、言葉をのみ込んでいるなら話しやすくする方向に使う。
所要 2分
判断は言葉と行動の積み重ねで
大事な判断は、1回のしぐさではなく、話の内容が事実と合っているか、行動が続いているかで確かめる。
所要 5分
04距離の取り方と相談先
唇のしぐさ一つで相手を疑う必要はありません。相手の言動で不安やストレスが続くときは、しぐさを読むより、専門の窓口に相談する方が確かです。
- 相手の唇の動きは「何かをこらえているかも」の目安にとどめ、嘘や敵意の証拠として扱わない
- 自分が唇を噛んだり結んだりしてしまうのも、緊張したときの自然な反応の一つ。無理に止めようとしなくてよい
- 人間関係のストレスや気持ちの落ち込みが長く続いてつらいときは、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や心療内科・カウンセリングに相談する
05よくある質問
唇を結ぶ・噛むしぐさについて、よくある疑問にお答えします。
唇をぎゅっと結ぶのは嘘をついているサインですか?
それだけで嘘とは言えません。120の研究を統合したメタ分析では、嘘をつく人は唇を押し付ける動きがわずかに多い傾向がありましたが、効果量は0.16と小さく、研究によるばらつきもありました。説を唱える元FBI捜査官自身も、唇の動きそのものは嘘の証拠ではないと書いています。
唇を噛むのはストレスや不安の表れですか?
不安が高いときに増えやすい動作の一つです。42人の男性を調べた研究では、唇を噛む・顔を触る・体をかくといった動作が多い人ほど、その時点の不安が高いという関係がありました。ただし唇を噛む動作だけを分けて調べた研究ではなく、乾燥や癖でも起こります。
唇が消える・薄くなるのは本当に血流のせいですか?
「ストレスで血管が縮み唇が薄くなる」という説明は、元FBI捜査官の観察にもとづく説で、唇の見た目の変化を直接測って確かめた研究は見当たりませんでした。研究で確認できるのは、唇を押し付ける・引き締める動きが緊張や照れの場面で増えやすい、というところまでです。
しぐさ・ボディランゲージ索引で「唇をぎゅっと結ぶ・噛む」を見る
ほかのしぐさも50種類から調べられます。4択クイズもあります。
出典
- Navarro, J. (2020, updated 2023). Body Language: The Lips Don't Lie. Joe Navarro official site(説の出典。研究ではない) https://www.jnforensics.com/post/the-lips-don-t-lie
- DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129(1), 74-118. https://doi.org/10.1037/0033-2909.129.1.74
- Keltner, D. (1995). Signs of appeasement: Evidence for the distinct displays of embarrassment, amusement, and shame. Journal of Personality and Social Psychology, 68(3), 441-454. https://doi.org/10.1037/0022-3514.68.3.441
- Blasberg, J. U., Gallistl, M., Degering, M., Baierlein, F., & Engert, V. (2023). You look stressed: A pilot study on facial action unit activity in the context of psychosocial stress. Comprehensive Psychoneuroendocrinology, 15, 100187. https://doi.org/10.1016/j.cpnec.2023.100187
- Mohiyeddini, C., & Semple, S. (2013). Displacement behaviour regulates the experience of stress in men. Stress, 16(2), 163-171. https://doi.org/10.3109/10253890.2012.707709


