よく褒めてくるのは好意のサインか。褒め言葉と好意・お世辞の研究

「よく褒めてくれるのは、気があるから?」と考えたことはありませんか。結論から言うと、褒め言葉だけでは好意かどうかは判断できません。褒めることは相手に好かれる効果が大きいため、好意がある人も、好かれたい・何かを得たい人も使うからです。手がかりになるのは「自分にだけか、誰にでもか」「立場の弱い人への態度」「褒めた後に何が続くか」です。
3行でわかる
- 褒める・同意するといった「取り入り」は、仕事の評価より「好き」という気持ちに強く効くことが、多くの研究をまとめたメタ分析でわかっている。
- お世辞と気づいて割り引いても、無意識の好印象は残る。3日後にクーポンを選んだ人の80%が、お世辞を言った店を選んだ(その場で選んだ人は54%)。
- スピードデートの研究では、特定の相手への好意は返されやすく、誰にでも好意を示す人はかえって好かれにくかった。褒め言葉は「自分にだけか」で読み方が変わる。
01何が起きているのか(悩みの正体)
褒め言葉には、好意から出るものと、好かれるための手段として使われるものがあります。言葉の内容だけでは、この2つを見分けられません。
恋愛メディアでは「よく褒めてくるのは脈ありサイン」とよく紹介されます。たしかに、好きな相手のよいところは目に入りやすく、口にも出やすいものです。
一方、社会心理学には「取り入り(ingratiation)」という研究分野があります。褒める、意見に同意する、親切にするなどして、相手に好かれようとする行動のことです。職場で上司に、営業で客に、そして恋愛でも使われます。つまり同じ「すてきだね」でも、出どころは2通りあり得ます。この記事では、褒め言葉の本気度を見抜く側に立って、研究でわかっていることを整理します。
02研究でわかっていること
褒め言葉は、相手に好かれる効果がはっきりあります。褒められた本人ほど相手を信じやすく、お世辞と気づいても好印象が残ります。ただし、誰にでも向けられた好意は逆効果になりやすいこともわかっています。
Gordon(1996年)[1]
「取り入り(ingratiation)」、つまり褒める・同意するなどして相手に好かれようとする行動を調べた研究をまとめたメタ分析(多くの研究を統合して分析する方法)。仕事の評価を上げる効果は小さかった。一方で、相手に「好き」と思わせる効果は、それより明らかに強かった。
効果の大きさを左右した条件: どんな方法か、見え透いているか、目上・目下・対等のどれに向けたか、褒められた本人か横で見ている人か、評価する人の性別、調査の場面 / 限界: 恋愛場面に絞った分析ではない。
Vonk(2002年)[2]
褒められた本人は、そのやりとりを横で見ている人よりも、褒めた相手を信頼し、好きになりやすかった。この差は、考える余裕の有無や気分、相手を好きになりたい動機などでは説明できなかった。
対象: 複数の実験の参加者 / 限界: 実験室で作った場面での結果で、長い付き合いの中での判断とは異なる可能性がある。
Chan・Sengupta(2010年)[3]
お店からのお世辞入りのチラシを見せる3つの実験。参加者は下心に気づいて評価を割り引いたが、無意識の好印象は消えずに残った。クーポンをその場で選んだ人のうち、お世辞を言った店を選んだのは54%。3日後に選んだ人では80%に上がった。
補足: 事前に自分の長所を書くなどして自分の価値を確かめた人には、お世辞の効果が見られなかった / 限界: 店と客の関係での実験で、恋愛にそのまま当てはまるとは限らない。
Eastwick・Finkel・Mochon・Ariely(2007年)[4]
大学生156人のスピードデート(1人4分、9〜13人と会う)を分析。特定の相手にだけ強い好意を示した人は、その相手からも好意を返されやすかった(相関 r=.14)。反対に、誰に対しても好意を示した人は、相手からかえって好かれにくかった(r=-.41)。
補足: 誰にでも好意を示す人は「誰にでもYesと言いそう」と見抜かれ、それが魅力を下げていた可能性がある / 限界: 4分間の初対面の場面での結果。
Vonk(1998年)[5]
目上の人には感じよく、目下の人には感じの悪い態度をとる人は、極端に嫌われ、「slimy(ぬるぬるした、いやらしい)」と判断された。目上への感じのよさは「何か下心があるのでは」という疑いを生み、目下への冷たさを見たときにその疑いが確信に変わった。
研究者はこれを「スライム効果」と名づけた / 限界: 文章で示した人物を評価する実験で、実際の人間関係の観察ではない。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
褒め言葉から読めるのは「あなたに好かれたいと思っている」までです。それが好意か手段かは、自分にだけか、他の人への態度、褒めた後の行動で確かめます。
上の5つの研究を、褒め言葉を受け取る側のチェックポイントとして整理すると、次のようになります。
- 自分にだけ向いているか: 誰にでも向けた好意は相手に見抜かれ、かえって好かれにくかった(Eastwickら)。誰にでも言う褒め言葉は、あなたへの特別な好意の証拠にはなりにくい
- 立場の弱い人にどう接するか: 目上に感じよく目下に冷たい人は、最も嫌われ疑われた(Vonk 1998)。得にならない相手への態度は、その人を知る手がかりになる
- 自分が褒められている当事者か: 褒められた本人は、見ている人より相手を信じやすい(Vonk 2002)。迷ったら、そのやりとりを見ていた友人の印象も聞いてみる
- 時間がたってからの印象か: お世辞の好印象は時間がたつほど残りやすかった(Chan・Sengupta)。大事な決断は、褒められた直後ではなく、自分の考えを確かめてから
自分にだけか、誰にでもかを見る
周りの人にも同じ調子で褒めているなら、それはその人の話し方や人づきあいの習慣かもしれない。自分にだけ向いているかどうかが、最初の手がかりになる。
所要 2分
立場の弱い人への態度を見る
店員さんや後輩など、その人にとって得にならない相手にどう接しているかを見る。上には感じよく下には冷たい人は、研究でも最も信頼されなかった。
所要 3分
褒め言葉のあとに何が続くかを見る
褒めた直後に頼みごと・お金の話・急な決断の催促が続くなら、褒め言葉は手段として使われている可能性がある。
所要 2分
言葉以外の行動で確かめる
時間を割いてくれるか、約束を守るか、あなたの話を覚えているか。褒め言葉より、こうした積み重ねのほうが好意の確かな手がかりになる。
所要 5分
出会ってすぐに褒め言葉や好意が急に大量に向けられる場合については、ラブボミングの記事で詳しく扱っています。ほかの脈ありサインの当てになり方は、スピードデートの研究が示した「好意の読み違い」もあわせて読んでみてください。
04距離の取り方と相談先
褒め言葉を喜ぶのは自然な反応で、疑ってかかる必要はありません。ただし、褒め言葉がお金や強い要求につながるときは、一度立ち止まり、必要なら窓口に相談します。
- 褒められて嬉しいと感じるのは、だまされやすいからではない。お世辞と気づいていても好印象が残るのは、多くの人に共通する反応
- 褒め言葉の直後に、お金を貸してほしい・投資を勧める・すぐ決めてほしいといった話が出たら、その場で返事をせず時間を置く
- 恋愛感情や褒め言葉をきっかけにお金を求められたときは、消費者ホットライン(188)や警察相談専用電話(#9110)に相談できる
05よくある質問
褒め言葉と好意について、よくある疑問にお答えします。
よく褒めてくる人は、自分に好意があるのですか?
褒め言葉だけでは判断できません。研究では、褒めることは相手に好かれる効果が大きく、好意がある人も、好かれたい・何かを頼みたい人も使います。自分にだけ向いているか、ほかの人への態度や、褒めた後に頼みごとがないかと合わせて見る方が確かです。
お世辞だとわかっていても、嬉しくなるのはなぜですか?
研究では、下心に気づいて頭では割り引いても、無意識の好印象は残ることが示されています。お店のお世辞を見た人のうち、3日後に選んだ人の80%がその店のクーポンを選びました。嬉しくなるのは自然な反応で、だまされやすい性格だからではありません。
褒め言葉が多いのは危険なサインですか?
褒め言葉が多いこと自体は危険のサインではありません。ただし、出会ってすぐに褒め言葉や好意が急に大量に向けられ、そのあとにお金の話や強い要求が続く場合は注意が必要です。お金が絡むときは消費者ホットライン188などに相談できます。
しぐさ・ボディランゲージ索引で「よく褒めてくる」を見る
ほかのしぐさも50種類から調べられます。4択クイズもあります。
出典
- Gordon, R. A. (1996). Impact of ingratiation on judgments and evaluations: A meta-analytic investigation. Journal of Personality and Social Psychology, 71(1), 54-70. https://doi.org/10.1037/0022-3514.71.1.54
- Vonk, R. (2002). Self-serving interpretations of flattery: Why ingratiation works. Journal of Personality and Social Psychology, 82(4), 515-526. https://doi.org/10.1037/0022-3514.82.4.515
- Chan, E., & Sengupta, J. (2010). Insincere flattery actually works: A dual attitudes perspective. Journal of Marketing Research, 47(1), 122-133. https://doi.org/10.1509/jmkr.47.1.122
- Eastwick, P. W., Finkel, E. J., Mochon, D., & Ariely, D. (2007). Selective versus unselective romantic desire: Not all reciprocity is created equal. Psychological Science, 18(4), 317-319. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2007.01897.x
- Vonk, R. (1998). The slime effect: Suspicion and dislike of likeable behavior toward superiors. Journal of Personality and Social Psychology, 74(4), 849-864. https://doi.org/10.1037/0022-3514.74.4.849


