話の途中で体の正面をそらすのは拒否のサインか。「腹側の否定」を元FBI捜査官の説と研究で検証

こちらが何か言った直後、相手がすっと体の向きを変えて、肩をこちらに向けた。「今の話が嫌だったのかな」と気になったことはありませんか。元FBI捜査官のジョー・ナヴァロ氏は、こうした動きを「腹側の否定(ventral denial)」と呼び、関わりたくない気持ちの表れだと説明しています。結論から言うと、嫌なものから体が離れようとする傾向は研究でも見られます。ただしその出方は人や状況で変わり、会話中に体をそらすことを「拒否」や「嘘」の証拠と確かめた研究は見当たりません。
3行でわかる
- 元FBI捜査官ナヴァロ氏は「お腹をそむけるのは、ここにいてほしくないサイン」と説明する。ただしこれは捜査や観察の経験にもとづく説で、研究による検証ではない。
- 不快な写真を見た36人の実験では、女性は体が後ろへ、男性は前へ動いた。嫌なものへの体の反応は、一つの決まった形をとるとは限らない。
- しぐさなどから嘘と本当を見分ける正解率は平均54%。体の向き一つから、相手の拒否や嘘を断定することはできない。
01何が起きているのか(悩みの正体)
体の正面をそらす動きは「関わりたくない気持ちの表れ」と広く紹介されています。この説の出どころは、元FBI捜査官の現場経験にもとづく説明です。
ジョー・ナヴァロ氏は、元FBI捜査官でボディランゲージの本を書いている人物です。著書『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』(原題 What Every BODY Is Saying)は日本でもよく読まれています。同氏はNBCニュースの取材で、隣の席の人と関わりたくないときの方法として、体の向きを変える動きを紹介しました。
同氏の説明はこうです。「お腹をそむけるのは、ここにいてほしくないということ」。これは「腹側の(背中側ではない)否定」と呼ばれ、体を回して相手に肩の方を多く見せる動きだといいます。さらに「子どもは幼いうちから、関わりたくないときにお腹をそむけることを覚える」とも述べています。
捜査や面接の現場で、多くの人を観察してきた経験は貴重です。ただ、経験にもとづく説明は、それだけでは研究による検証とは別のものです。ここでは「嫌なものから体が離れるのか」「体の向きから本音や嘘を読めるのか」の2点を、研究で確かめます。
02研究でわかっていること
嫌なものを前に体が離れようとする傾向は、実験で確かめられています。ただし反応には男女差などのばらつきがあり、しぐさから嘘を見抜くこともほぼできません。
Hillman・Rosengren・Smith(2004年)[2]
36人(女性18人・男性18人)に、快い写真・不快な写真・どちらでもない写真を見てもらい、立ったままの体の重心の動きを測った。不快な写真を見たとき、女性は体が後ろへ動く傾向が強まった。一方、男性は逆に前へ動く傾向が強まった。快い写真やどちらでもない写真では、こうした男女差は見られなかった。
対象: 成人36人 / 限界: 写真を見る実験室の課題で、会話の相手に対する反応ではない。体を回す(向きを変える)動きではなく、前後の重心の動きを測っている。
Stins ほか(2011年)[3]
女性52人に、笑顔か怒り顔の写真を見せ、表情に応じて前か後ろへ一歩踏み出してもらった。怒り顔に向かって前へ踏み出すときは、笑顔に向かって踏み出すときより、動き始めるまでに時間がかかった。嫌な相手に近づく動きは、体がためらいやすいことを示している。
対象: 18〜35歳の女性52人 / 限界: 後ろへ下がる動きでは、怒り顔と笑顔のはっきりした差は出なかった。動く方向は実験の指示で決まっており、自然に体をそらす動きを見たものではない。
Bond・DePaulo(2006年)[4]
206の文献、のべ24,483人の判定者をまとめたメタ分析(多くの研究をまとめて分析する方法)で、特別な道具や訓練なしに嘘と本当を見分けた正解率は平均54%だった。嘘を嘘と見抜けたのは47%にとどまった。見た目だけで判断するより、声が聞けるときの方が正確だった。
対象: 206文献・24,483人の判定者 / 限界: 体の向きだけを調べた研究ではなく、しぐさ全般を含む見抜く力の結果。
Vrij・Hartwig・Granhag(2019年)[5]
しぐさと嘘の関係をまとめたレビュー(研究の総まとめ)。これまでに見つかった嘘のしぐさの手がかりは「弱く、当てにならない」と結論づけた。人が行動に注目して嘘を見抜こうとしても、その精度は平凡だとしている。しぐさと嘘についての思い込みは、正すのがとても難しいとも指摘している。
対象: しぐさと嘘に関する研究全体 / 限界: 体の向きに特化したまとめではない。
まとめると、「嫌なものから体が離れようとする」という大まかな方向性は、研究とも重なります。一方で、反応の出方は男女で逆になることもありました。また、ここで紹介した実験はどれも、写真への反応や指示された動きを測ったものです。会話の途中で体の正面をそらす動きが「拒否」を意味するかを、直接確かめた研究は見当たりませんでした。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
体の正面をそらす動きから読めるのは「その瞬間、何か居心地の悪さがあったかもしれない」までです。拒否・嫌悪・嘘の中身は読めないので、言葉で確かめます。
- 読めること: 特定の話題の直後に体の向きが変わったら、その話題か状況に何か引っかかりがあった可能性がある
- 読めないこと: 自分が嫌われたか、話を拒んでいるか、嘘をついているか
- 別の理由: 疲れ、座り心地、周りの音や人、次の予定、単なる姿勢の変化など、体の向きが変わる理由は多い
一度きりの動きで判断しない
体の向きは誰でもしょっちゅう変わる。同じ話題のたびに繰り返すかどうかを見る。
所要 1分
その人の普段と比べる
もともと斜めに座る人、横並びが落ち着く人もいる。いつもと違うかどうかに注目する。
所要 1分
言葉で確かめる
「今の話、気になるところあった?」と軽く聞く。しぐさの推測より、本人の言葉の方が確か。
所要 2分
自分の不安も切り分ける
相手の向き一つで「嫌われた」と感じたら、それが自分の不安から来ていないか、一度立ち止まって考える。
所要 3分
逆に、言葉では「大丈夫」と言いながら、行動では何度も約束を断る、連絡を避けるといったことが続く場合は、しぐさより行動の積み重ねを手がかりにする方が確かです。
04距離の取り方と相談先
体の向き一つで相手を疑ったり、自分を責めたりする必要はありません。人間関係の不安が強く続くときは、専門の窓口に相談できます。
- 相手が体をそらしたら「何か気になったかな」の目安にとどめ、拒否や嘘の証拠として扱わない
- 関わりたくない相手から自分が体をそらすのは、自然な距離の取り方の一つ。言葉で伝えにくいときの合図にもなる
- 人の反応が気になって眠れない、気持ちの落ち込みが長く続くときは、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や心療内科・カウンセリングに相談する
05よくある質問
体の正面をそらすしぐさについて、よくある疑問にお答えします。
話の途中で相手が体をそらしたら、嫌われたということですか?
そうとは限りません。体の正面をそらす動きを「拒否」と結びつけた説は経験にもとづくもので、会話の中で確かめた研究は見当たりません。疲れ、座り心地、周りの音や人など、体の理由や環境の理由も多くあります。好き嫌いは言葉や行動の積み重ねで判断する方が確かです。
体をそむけるのは嘘をついているサインですか?
嘘の証拠にはなりません。研究のまとめでは、嘘を示すしぐさの手がかりは弱く当てにならないとされています。206文献・24,483人の判定者をまとめたメタ分析でも、人が嘘と本当を見分けられた正解率は平均54%で、偶然の50%をわずかに上回る程度でした。
「腹側の否定」とは何ですか?
元FBI捜査官のジョー・ナヴァロ氏が使う言葉で、嫌なものや関わりたくない相手から、お腹側(体の正面)をそらす動きを指します。同氏は「子どもは幼いうちから、関わりたくないときにお腹をそむけることを覚える」と説明しています。ただしこれは経験にもとづく説明で、研究で検証された定義ではありません。
しぐさ・ボディランゲージ索引で「話の途中で体の正面をそらす」を見る
ほかのしぐさも50種類から調べられます。4択クイズもあります。
出典
- Greenfield, B. (2011, December 8). 6 Graceful Strategies for Dealing With an Annoying Seatmate. NBC News.(ジョー・ナヴァロ氏へのインタビュー) https://www.nbcnews.com/news/amp/wbna45601651
- Hillman, C. H., Rosengren, K. S., & Smith, D. P. (2004). Emotion and motivated behavior: Postural adjustments to affective picture viewing. Biological Psychology, 66(1), 51-62. https://doi.org/10.1016/j.biopsycho.2003.07.005
- Stins, J. F., Roelofs, K., Villan, J., Kooijman, K., Hagenaars, M. A., & Beek, P. J. (2011). Walk to me when I smile, step back when I'm angry: Emotional faces modulate whole-body approach-avoidance behaviors. Experimental Brain Research, 212(4), 603-611. https://doi.org/10.1007/s00221-011-2767-z
- Bond, C. F., & DePaulo, B. M. (2006). Accuracy of deception judgments. Personality and Social Psychology Review, 10(3), 214-234. https://doi.org/10.1207/s15327957pspr1003_2
- Vrij, A., Hartwig, M., & Granhag, P. A. (2019). Reading lies: Nonverbal communication and deception. Annual Review of Psychology, 70, 295-317. https://doi.org/10.1146/annurev-psych-010418-103135


