答えるまでの間や早口は嘘のサインか。話す速さ・間と嘘の研究

「返事までの間が長かった」「急に早口になった」。そんな些細な変化に、相手が嘘をついているのではと身構えた経験がある人は多いはずです。間(ま)や話す速さは、本当に嘘を見抜く手がかりになるのか、心理学の研究から確かめます。
3行でわかる
- 41本の研究をまとめたメタ分析では、答えるまでの間は嘘をついているときにわずかに長くなる傾向が確認された。ただし効果は小さい。
- 話す速さについては、嘘をついているときに特別に速くなる・遅くなるという一貫した関連は、大規模なメタ分析では確認されていない。
- 間や話す速さだけで相手を疑うのではなく、普段のその人の話し方と比べ、内容そのものを確かめることが大切。
01何が起きているのか。間や早口が気になるわけ
とっさに嘘を作ることには考える負担がかかるという説がある一方、間が空く理由は記憶の想起や緊張など他にも多く、間だけで嘘とは言い切れない。
相手の返事が一瞬遅れたり、急に早口になったりすると、「何か隠しているのでは」と感じた経験がある人は多いでしょう。取り調べの手引きや交渉術の本でも、間や話す速さの変化は「怪しいしぐさ」としてしばしば紹介されます。
この見方の背景には、嘘をつくことは本当のことを話すよりも頭を使う、という考え方があります。本当の記憶をそのまま話すのと違い、嘘は話の内容を一から組み立て、前に言ったことと矛盾しないか確認しながら話す必要があるため、考える時間がかかりやすいという説明です。
ただし、返事が遅れる理由は嘘以外にも数多くあります。質問が難しかった、記憶を思い出すのに時間がかかった、人前で話すこと自体に緊張している、もともと話し方がゆっくりといった個人差も影響します。間や話す速さの変化を、嘘の証拠として単純に結びつけてよいのか、研究で確かめます。
02研究でわかっていること
答えるまでの間は、嘘をついているときにわずかに長くなる傾向がメタ分析で確認された。一方、話す速さに一貫した関連は見つかっていない。
Sporer・Schwandt(2006)[1]
嘘の手がかりとされる9つの音声・話し方の指標(話す速さ、答えるまでの間、話の長さ、言葉数、沈黙、言い直し、言い間違い、声の高さなど)について、41本の研究をまとめて調べたところ、嘘をついているときに一貫して変化していたのは、声の高さ(効果量d=0.268)と答えるまでの間(効果量d=0.177)の2つだけだった。どちらも、嘘をついているときに値が大きくなる(高くなる・長くなる)方向で一致していた。話す速さを含む残り7つの指標には、信頼できる関連は見つからなかった。
対象: 音声・話し方に関する41本の研究を統合したメタ分析(効果量の数値は、この結果を紹介している Spence, Villar, & Arciuli, 2012 の記載による) / 限界: 効果量はいずれも小さい水準で、1人の返答だけから嘘を判定できるほどの差ではない。
DePaulo・Lindsay・Malone他(2003)[2]
嘘にまつわるとされる158種類ものしぐさ・話し方・表情を対象に、116本の研究、合計1,338件の推定値をまとめた大規模なメタ分析。「あらゆる人・あらゆる場面に共通して、嘘だけに結びつく単一の行動は見つからなかった」と結論づけている。多くの指標は、嘘との関連が弱いか、ほとんど見られなかった。
対象: 158種類の手がかりに関する116本の研究、合計1,338件の推定値を統合 / 限界: 幅広い場面・対象をまとめた分析であり、特定の1つの場面にそのまま当てはまるとは限らない。
Spence・Villar・Arciuli(2012)[3]
イタリア語を話す19人に、準備なしでその場の社会的な話題について、本当のことと嘘を両方話してもらう実験。嘘をついたときの方が、答えるまでの間が明らかに長く(嘘: 中央値1200.77ミリ秒 / 本当: 775.26ミリ秒)、話す速さも明らかに遅かった(嘘: 1秒あたり1.95語 / 本当: 1秒あたり2.10語)。声の高さには差がなかった。
対象: イタリア語母語話者19人(平均56.1歳)、準備時間のない即興の発言 / 限界: 少人数・特定の言語・実験室での課題であり、準備時間がある嘘や、実際の対人関係での結果は異なる可能性がある。
なお、しぐさや話し方全般から嘘を見抜ける精度を206本の研究から統合した別の分析では、正解率は平均で約54%にとどまっている[4]。偶然(50%)とほとんど変わらない水準で、間や話す速さのような1つの手がかりだけに頼ることの限界を裏づけている。
| 指標 | 41研究のメタ分析(Sporer & Schwandt, 2006) | 1件の実験(Spence et al., 2012) |
|---|---|---|
| 答えるまでの間 | 信頼できる関連あり(d=0.177、嘘で長くなる) | 嘘で有意に長い(1200.77ms vs 775.26ms) |
| 話す速さ | 信頼できる関連なし | 嘘で有意に遅い(1.95語/秒 vs 2.10語/秒) |
多数の研究を束ねたメタ分析と、1件の実験とで結果の強さが食い違うのはよくあることです。答えるまでの間は比較的繰り返し確認されている一方、話す速さは研究によって結果が割れやすい、という受け止め方が無難でしょう。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
間や話す速さの変化は、嘘の弱い手がかりの一つにすぎない。普段のその人の話し方と比べ、内容の矛盾も合わせて見ることが確実。
「間」は参考程度にとどめる
答えるまでの間が長くても、それだけで嘘と決めつけない。研究で確認された関連は小さく、記憶を探している、緊張しているだけの場合も多い。
気づいたときに
「早口」だけで判断しない
話す速さが嘘のサインになるという一貫した証拠は見つかっていない。早口になった、あるいは逆にゆっくりになったという変化だけでは判断材料にならない。
会話の中で
普段のその人と比べ、内容で確かめる
間や速さの変化を気にするなら、その場の一回だけでなく普段のペースと比べる。しぐさ全体から嘘を見抜ける精度は平均54%ほどで、気になることは話の内容や事実関係を確かめる方が確実。
数回の会話で
04距離の取り方と相談先
間や話す速さだけで相手を嘘つきと決めつけて問い詰めるのは避ける。お金や契約の不安があるときは、公的な窓口に相談する。
- 間が空いた・早口になったからといって、その場で問い詰めない。緊張していた、言葉を選んでいただけということも多く、本当のことを話している人を傷つけるおそれがある
- 商談や勧誘で「考える時間を与えない」早口の話し方をされたときは、話す速さに気を取られず、契約の内容や条件そのものを確認する
- お金の話に不安があるときは消費者ホットライン(188)、脅しや身の危険を感じるときは警察相談専用電話(#9110)に相談する
05よくある質問
答えるまでの間が長い人は、嘘をついていると考えていいですか。
研究では、嘘をついているときに答えるまでの間がわずかに長くなる傾向が確認されていますが、効果は小さく、それだけで嘘と判定できるものではありません。難しい質問を考えている、緊張しているだけの場合も多くあります。
早口になるのは嘘をついているサインですか。
話す速さについては、嘘をついているときに速くなる・遅くなるという一貫した関連は、大規模なメタ分析では確認されていません。個別の実験では差が見つかった例もありますが、研究間で結果が一致しておらず、早口かどうかだけで嘘を見抜くことはできません。
しぐさや話し方全般から嘘を見抜くことは可能ですか。
206本の研究をまとめた分析では、しぐさや話し方から嘘を見抜ける正解率は平均で約54%でした。偶然(50%)とほとんど変わらない水準で、気になることは話の内容や事実関係を確かめる方が確実です。
しぐさ・ボディランゲージ索引で「答えるまでの間が長い・早口になる」を見る
ほかのしぐさも51種類から調べられます。4択クイズもあります。
出典
- Sporer, S. L., & Schwandt, B. (2006). Paraverbal indicators of deception: A meta-analytic synthesis. Applied Cognitive Psychology, 20, 421-446.(効果量の数値はSpence, Villar, & Arciuli, 2012の記載により確認) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3498872/
- DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129(1), 74-118. https://doi.org/10.1037/0033-2909.129.1.74
- Spence, K. H., Villar, G., & Arciuli, J. (2012). Markers of deception in Italian speech. Frontiers in Psychology, 3, 453. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2012.00453
- Bond, C. F. Jr., & DePaulo, B. M. (2006). Accuracy of deception judgments. Personality and Social Psychology Review, 10(3), 214-234. https://doi.org/10.1207/s15327957pspr1003_2


