一瞬の表情「微表情」で本音は読めるのか。マイクロエクスプレッションの研究

相手が笑顔を見せた直後、一瞬だけ表情が曇った気がして「本当は嫌だったのでは」と気になったことはないでしょうか。0.2秒ほどで消える「微表情(マイクロエクスプレッション)」は、隠した本音が漏れ出るサインとして広く紹介されてきました。結論から言うと、研究では微表情はまれにしか現れず、見分ける訓練をしても嘘を見抜く精度は上がりませんでした。何が読めて、何が読めないのかを順番に見ていきます。
3行でわかる
- 697の表情を1/30秒ごとに分析した研究では、微表情が見られたのは全表情のわずか2%で、顔の上半分か下半分だけに出ていた。
- 微表情を見分ける訓練で「微表情を当てる力」は伸びたが、ほかの場面の感情の読み取りには広がらなかった。
- 90人を対象にした実験では、市販の微表情訓練を受けても嘘を見抜く精度は上がらず、全体の正答率は偶然をわずかに下回った。
01何が起きているのか(悩みの正体)
微表情とは0.04〜0.2秒ほどで消える一瞬の表情のことです。「隠した本音が漏れる」と言われますが、出ること自体がまれで、出ても本音の証拠とは限りません。
微表情は、心理学では「1/25秒から1/5秒ほどしか続かない表情」と定義されてきました。もともとは、心理療法の録画をスロー再生したときに、続いている表情を一瞬さえぎる顔の動きが見つかったことが始まりです。その後「感情を隠そうとしても、顔には本音が一瞬漏れる」という考えが広まり、本やテレビで「嘘を見抜く技術」として紹介されるようになりました。
ただし2023年に心理学の専門誌に掲載された総説は、こうした考えが広まったのは主に裏づけの乏しい事例報告によるものだと指摘しています。一瞬の表情の変化は「隠した感情の漏れ」ではなく、「その場で気持ちが揺れている」ことの表れにすぎない可能性があるとしています。たとえば、いたずらを叱る親が、子どもの知恵に思わず一瞬笑みをこぼすような場面です。
02研究でわかっていること
微表情は出ること自体がまれです。訓練で微表情を見分ける力は伸びますが、それが嘘を見抜く力につながるという確かな証拠はありません。
Porter・ten Brinke(2008年)[1]
参加者に嫌悪・悲しみ・恐怖・喜びを感じる画像などを見せ、本当の表情か、偽った表情(別の感情を装う、無表情を装う、別の表情で隠す)で反応してもらった。697の表情(104,550コマ)を1/30秒ごとに分析したところ、微表情が見られたのは全表情の2%で、参加者の21.95%にとどまった。しかも顔の上半分か下半分だけに出ており、顔全体に出た例はなかった。
対象: 実験室で表情を作った参加者 / 限界: 画像に反応する実験室の課題であり、日常の会話で微表情が出る頻度とは異なる可能性がある。
Matsumoto・Hwang(2018年)[2]
模擬犯罪の実験で、77人(本当のことを話す37人、嘘をつく40人)の検問面接での表情を分析した。0.4秒以下・0.5秒以下の否定的な感情の微表情は、嘘をつく人と本当のことを話す人で出方に差があった。微表情が嘘の手がかりになりうることを示した、肯定的な側の研究として位置づけられている。
対象: 一般から募集した77人 / 限界: 映像を専門的にコマ送りで分析した結果であり、人がその場で目で見て判断できることを示したものではない。
Döllinger ほか(2021年)[3]
67人を、微表情の訓練、音声・映像を使った感情の読み取り訓練、比較用の課題のいずれかに振り分け、週1回・3週間の短いパソコン訓練を行った。微表情の訓練を受けた人は、微表情を当てる課題の成績が大きく伸びた。一方で、訓練した課題以外の読み取りには効果が広がらず、患者の感情の手がかりを読む課題でもグループ間の差は見られなかった。
対象: 67人 / 限界: 訓練の約1週間後に測った結果であり、長期的な効果や日常場面での効果は確認されていない。
Jordan ほか(2019年)[4]
90人を、微表情訓練ツール(METT)を受けるグループ、効果のない偽の訓練を受けるグループ、訓練なしのグループに振り分け、嘘か本当の話をしている人の映像5本を判定してもらった。微表情訓練を受けたグループは、ほかの2グループを上回らなかった。全体の正答率は偶然(50%)をわずかに下回った。
対象: 90人 / 限界: 判定した映像は1人5本と少なく、別の訓練法や別の場面での効果までは否定できない。
研究を並べて見えること
4つの研究を「微表情の何を確かめたか」で並べると、読める範囲と読めない範囲が分かれます。
| 確かめたこと | 結果 |
|---|---|
| どのくらい出るか | 全表情の2%。顔の一部だけ[1] |
| 映像分析で嘘と関係するか | 否定的な感情の0.5秒以下の表情で差あり[2] |
| 訓練で見分けられるようになるか | 微表情の課題だけは伸びる。ほかには広がらない[3] |
| 訓練で嘘を見抜けるようになるか | 伸びない。正答率は偶然をわずかに下回る[4] |
つまり「微表情という現象がある」ことと「人が目で見て本音を読める」ことは別の話です。総説でも、表情やしぐさから確実に嘘を見抜ける手がかりがあるという考えは、根強い誤解の1つとして挙げられています[5]。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
一瞬の表情で本音を決めつけず、言葉と行動が長く一致しているかで相手を見ることが、勘違いや思い込みから自分を守る助けになります。
「一瞬の曇り」を本音と決めつけない
微表情は全表情の2%ほどしか出ず、出ても気持ちが一瞬揺れただけかもしれません。1回の表情で相手の気持ちを結論づけないようにします。
所要 意識するだけ
気になったら言葉で確かめる
「さっき少し困った顔に見えたけど、大丈夫?」と軽く聞くほうが、表情を読み解こうとするより確かな手がかりになります。
所要 1分
表情より行動の積み重ねを見る
約束を守るか、言ったことと行動が一致しているかは、何週間も続けて確かめられます。一瞬の顔より、長い期間の行動のほうが頼りになります。
所要 数週間かけて
「嘘を見抜ける」をうたう講座に注意する
訓練しても嘘を見抜く精度が上がらなかった研究があります。微表情を読めば本音がわかると断言する情報は、出典を確かめてから受け止めます。
所要 3分
04距離の取り方と相談先
表情を読もうとして不安が強まるときは、読み取りをいったん手放し、事実と言葉で関係を見直すことが助けになります。
- 相手の顔を「監視」するほど不安が強まるなら、表情の解釈をやめて、事実(約束・行動)だけを書き出してみる
- 相手の言動に違和感が続くときは、信頼できる第三者に事実を話し、自分だけの思い込みでないかを確かめる
- 嘘や支配、暴言などで身の危険や強い苦痛を感じるときは、一人で抱え込まず、警察相談専用電話(#9110)やお住まいの自治体の相談窓口に相談する
05よくある質問
微表情について、よく寄せられる疑問にお答えします。
微表情とは何ですか?
1/25秒から1/5秒ほどしか続かない一瞬の表情のことです。研究では、697の表情のうち微表情が見られたのは2%にとどまり、顔の上半分か下半分だけに出ていました。
微表情を見れば嘘は見抜けるの?
人が目で見て見抜けるという確かな証拠はありません。微表情訓練ツールを使った90人の実験では、訓練を受けても嘘を見抜く精度は上がらず、全体の正答率は偶然をわずかに下回りました。
微表情を読み取る訓練に意味はありますか?
微表情を当てる課題の成績は、週1回・3週間の訓練で大きく伸びたという研究があります。ただしその効果はほかの感情の読み取りには広がらず、日常で本音を見抜く力につながるとは確認されていません。
出典
- Porter, S., & ten Brinke, L. (2008). Reading between the lies: Identifying concealed and falsified emotions in universal facial expressions. Psychological Science, 19(5), 508-514. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02116.x
- Matsumoto, D., & Hwang, H. C. (2018). Microexpressions differentiate truths from lies about future malicious intent. Frontiers in Psychology, 9, 2545. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.02545
- Döllinger, L., Laukka, P., Högman, L. B., Bänziger, T., Makower, I., Fischer, H., & Hau, S. (2021). Training emotion recognition accuracy: Results for multimodal expressions and facial micro expressions. Frontiers in Psychology, 12, 708867. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.708867
- Jordan, S., Brimbal, L., Wallace, D. B., Kassin, S. M., Hartwig, M., & Street, C. N. H. (2019). A test of the micro-expressions training tool: Does it improve lie detection? Journal of Investigative Psychology and Offender Profiling, 16(3), 222-235. https://doi.org/10.1002/jip.1532
- Patterson, M. L., Fridlund, A. J., & Crivelli, C. (2023). Four misconceptions about nonverbal communication. Perspectives on Psychological Science, 18(6), 1388-1411. https://doi.org/10.1177/17456916221148142