「運命の人」を信じるほど関係がうまくいかなくなるのか。暗黙の関係理論の研究

「この人が運命の相手なら、すれ違いなんて起きないはず」。そう感じて、些細な対立のたびに気持ちが冷めていく人がいます。心理学では、この感覚の背景に、恋愛や結婚についての「思い込み」があると考えられています。
3行でわかる
- 恋愛や結婚についての考え方は、大きく「運命思考」と「成長思考」の2つに分かれることが、複数の研究で示されている。
- 128人の日記調査と75組のカップルを対象にした実験では、対立があった日でも、成長思考が強い人ほど関係への気持ちが冷めにくかった。
- 約1900人を対象にしたセックスに関する研究でも、「相性の良さ」より「努力」を信じる人の方が、意見の違いがあっても満足度を保ちやすかった。
01「運命の人」思考と「育てる」思考、何が違うのか
恋愛や結婚についての考え方は、大きく「運命思考」と「成長思考」の2つに分けられると心理学では説明されている。
「運命思考」は、相性の良い相手かどうかは最初から決まっていて、うまくいく関係は自然にわかる、という考え方。「成長思考」は、関係は対話や工夫によって育てていくもの、という考え方を指す。心理学者のC. Raymond Kneeらは、こうした恋愛や結婚についての無意識の思い込みを「暗黙の関係理論」と呼び、理論としてまとめている。
この2つの考え方は、関係の中で何に注意を向けるかにも影響するとされる。運命思考が強い人は「この相手は自分に合っているか」を評価する方向に注意が向きやすく、成長思考が強い人は「どうすればこの関係をより良くできるか」を工夫する方向に注意が向きやすいという。
どちらか一方だけを強く持っているとは限らず、誰の中にも両方の考え方が程度の差はあれ存在すると考えられている。問題になりやすいのは、対立が起きたときに運命思考が強く働き、「合わない相手だったのでは」と結論を急いでしまう場合だという。
02研究でわかっていること
対立が起きたときにどう考えるかが、関係への気持ちや満足度を左右することが、複数の研究で確認されている。
Knee・Patrick・Lonsbary(2003)[1]
恋愛や結婚についての思い込みは、関係の中で「相手を評価すること」に向かうか「関係を工夫し維持すること」に向かうかを左右し、目標の立て方や対立への対応など幅広い行動に影響すると結論づけた。
対象: それまでの実証研究をまとめた理論的レビュー / 限界: レビュー論文であり、単独の実験データを新たに示すものではない。
Knee・Patrick・Vietor・Neighbors(2004)[2]
128人を対象にした10日間の日記調査と、75組のカップルによる話し合いの実験の両方で、対立があった日ほど関係への気持ち(コミットメント)が下がる傾向が見られたが、この落ち込みは成長思考が強い人ほど小さかった。
対象: 日記調査128人(10日間)、実験室での話し合い75組 / 限界: いずれも短期間の調査で、対立後の関係の行方を長期的に追跡したものではない。
Maxwell・Muise・MacDonald・Day・Rosen・Impett(2017)[3]
オンライン調査や21日間の日々の記録、カップル調査、実験を組み合わせた6つの研究、合計1896人を対象にした研究では、「満足のいく関係は努力で築くもの」と考える人ほど、日々の関係満足度や性的満足度が高かった。一方「相性の良さがすべて」と考える人は、意見の違いがあった日に満足度が大きく下がりやすかった。
対象: 6つの研究、計1896人(異性愛・同性間の関係を含む) / 限界: 対象は主に北米の成人で、異なる文化的背景を持つ集団への一般化には注意が必要。
03今日からできる小さな一歩
対立が起きたときに、それを「相性の証拠」ではなく「向き合う課題」として捉え直す練習が、研究から示唆されている。
「終わりのサイン?それとも育てる機会?」と自問する
意見の違いやケンカがあった日は、自動的に「合わない相手なのでは」と結論づける前に、この問いを一度挟んでみる。
その場で1分
対立を「相手」ではなく「状況」のせいにしてみる
「この人とは合わない」ではなく「今回はタイミングや伝え方が悪かった」と捉え直すと、対立後も関係への気持ちが保たれやすいことが研究で示されている。
会話の後に1分
小さな歩み寄りを1つ増やす
運命の相手かどうかを探したり確かめたりする代わりに、今の関係の中でできる小さな協力行動(家事を1つ引き受ける、感謝を言葉にするなど)を1つ増やしてみる。
1日1回
04続けるためのコツ
「運命だから」ではなく「工夫すれば良くなる」という考え方は、我慢を勧めるものではない。
- 「成長思考」は、どんな相手・どんな関係でも耐え続けることを意味しない。研究が示しているのは対立の受け止め方が関係への気持ちに影響するということであり、関係そのものが健全かどうかとは別の問題である。
- SNSで見かける「理想のカップル」や「運命の相性診断」と自分たちの関係を比べる時間を減らすことも役立つ可能性がある。比較は運命思考を強めやすいと考えられている。
- パートナーと「うまくいかない時、私たちはどう考える?」を事前に話し合っておくと、対立が起きたときにお互い「相性が悪い」と結論を急がずに済みやすい。
- 「相性がいいはずなのに、なぜかすれ違う」と感じる人は少なくない。対立を相性の欠如と結びつけやすい運命思考は珍しいものではなく、多くの人が程度の差はあれ持っている考え方だとされる。
05よくある質問
「運命の人」を信じること自体が良くないの?
研究が問題にしているのは、信じること自体ではなく、対立が起きたときにどう考えるかです。運命思考が強くても、対立を「終わりのサイン」ではなく「向き合う課題」と捉え直せれば、悪い影響は小さくなる可能性があるとされています。
「成長思考」を持てば、どんな関係もうまくいく?
いいえ。研究が示しているのは、思い込みが対立への向き合い方に影響するということで、関係の質そのものを保証するものではありません。モラハラや支配など安全に関わる問題がある場合は、考え方の持ちようではなく、専門家や相談窓口への相談を優先してください。
「相性がいいはずなのに、すれ違いが多い」と感じるのは自分だけ?
そう感じる人は少なくないとされています。対立を相性の欠如と結びつけやすい運命思考は珍しいものではなく、多くの人が程度の差はあれ持っている考え方です。大切なのは、対立が起きたときにその意味をどう捉え直すかだと研究は示しています。
出典
- Knee, C. R., Patrick, H., & Lonsbary, C. (2003). Implicit theories of relationships: Orientations toward evaluation and cultivation. Personality and Social Psychology Review, 7(1), 41-55. https://doi.org/10.1207/s15327957pspr0701_3
- Knee, C. R., Patrick, H., Vietor, N. A., & Neighbors, C. (2004). Implicit theories of relationships: Moderators of the link between conflict and commitment. Personality and Social Psychology Bulletin, 30(5), 617-628. https://doi.org/10.1177/0146167203262853
- Maxwell, J. A., Muise, A., MacDonald, G., Day, L. C., Rosen, N. O., & Impett, E. A. (2017). How implicit theories of sexuality shape sexual and relationship well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 112(2), 238-279. https://doi.org/10.1037/pspi0000078
