嘘をつく人は、逆に目をじっと見るのか。「意図的なアイコンタクト」と嘘の研究

「嘘をつく人は目を逸らす」とよく言われます。だからこそ、じっと目を見て話す相手は信じてよいと思いたくなります。でも、その思い込みを逆手に取る人がいるとしたらどうでしょうか。視線と嘘の関係を、心理学の研究から確かめます。
3行でわかる
- 158種類の非言語的な手がかりを統合した大規模なメタ分析では、視線回避(目を逸らすこと)は嘘とほとんど関連しないことが確認された。
- Mannら(2012)の研究では、「意図的なアイコンタクト」(わざと目を合わせ続けること)を測ると、嘘をついている人の方が正直な人より長く目を合わせていたという、通説とは逆の結果が報告されている。
- 複数のレビュー論文が、視線にまつわる非言語的な手がかりは、嘘の判定には使えないと結論している。見た目の「目力」だけで相手を信じるのは危険。
01何が起きているのか。「目を見れば嘘がわかる」という思い込み
「嘘をつく人は目を逸らす」という通説は広く信じられているが、研究ではその関連は確認されていない。
多くの人は「目を逸らす=何か隠している」と感じます。取調べの手法などでも長く語られてきた考え方で、「目を見て話さない人」を疑う根拠として使われることがあります。
しかし、この思い込みが広く知られているからこそ、それを逆手に取る人もいます。「正直に見せたい」と思う人ほど、意識的に相手の目を見続けることがあるのです。視線は、ある程度意図的に作れてしまう手がかりでもあります。
02研究でわかっていること
目を逸らすこと自体は嘘のサインにならないだけでなく、嘘をついている人の方が意図的に長く目を合わせる傾向も報告されている。
DePaulo・Lindsay・マローンら(2003)[1]
嘘にまつわるとされる158種類のしぐさ・話し方・表情を対象に、合計1,338件の推定値を統合した大規模なメタ分析。目を逸らす・視線回避を含む多くの行動は、嘘との関連が見られないか、弱い関連にとどまった。
対象: 158種類の手がかりに関する合計1,338件の推定値を統合 / 限界: 幅広い場面・対象をまとめた分析であり、特定の1つの場面にそのまま当てはまるとは限らない。
Mannら(2012、Brennen & Magnussen, 2020の論文で確認)[2]
目を合わせる量そのものではなく「意図的なアイコンタクト」(わざと相手の目を見続けること)を測定すると、嘘をついている人の方が正直に話している人よりも長く目を合わせていたと報告されている。Brennenらは、この種の小さな効果を1人ひとり・1つひとつの発言の判定に当てはめることは難しいと注意を添えている。
対象: Mannらの原論文(Journal of Nonverbal Behavior, 2012)の結果を、Brennen & Magnussen, 2020の論文で確認 / 限界: 効果は統計的には確認されたが小さい。原論文そのものには直接あたれておらず、参加者の人数や場面はここでは確認できていない。
Brennen・Magnussen(2020)[2]
嘘と非言語的な手がかりに関する数十年分の研究を振り返った論考。視線回避やそわそわした動きなど、通説で語られる非言語的なサインのうち、嘘の信頼できる指標と確認されたものはないと結論づけ、裁判所はこうしたしぐさを信用性の判断に使わないよう勧めている。
対象: これまでの研究を振り返った論考 / 限界: 著者の見解を述べた論文であり、新しい実験データではない。
Patterson・Fridlund・Crivelli(2023)[3]
非言語コミュニケーションにまつわる4つの思い込みを検証した論文。「目を逸らす・視線回避は情報を隠しているサイン」という考え方は、数多くの研究結果と矛盾していると指摘し、信頼できる嘘の見抜き方として非言語的な手がかりに頼ることに注意を呼びかけている。
対象: 既存研究のレビュー / 限界: レビュー論文であり、新しい実験データではない。
| よくある思い込み | 研究でわかっていること |
|---|---|
| 目を逸らす人は嘘をついている | 158種類の手がかりのメタ分析で、関連はほとんど確認されず |
| じっと目を見る人は正直 | 嘘をついた人の方が意図的に長く目を合わせていたという報告あり |
「目を見て話すから信頼できる」と「目を逸らすから何か隠している」は、どちらも研究の裏付けがない思い込みだということです。視線は、見る側が期待している以上に、作られやすい手がかりだと考えておくのが無難でしょう。
03見抜くサインと、身を守る小さな一歩
「目を見て話すから信頼できる」「目を逸らすから嘘をついている」のどちらも、研究では裏付けられていない。視線だけで相手を判断しない。
自信ありげな「目力」に流されない
まっすぐ目を見て話されると信じたくなりますが、視線は意図的に作れます。契約や勧誘など大事な場面では、視線の印象だけで判断しない。
気づいたときに
「目を逸らした」だけで責めない
緊張、考え事、人前が苦手、文化的な習慣の違いなど、目を逸らす理由は嘘以外にも数多くある。本当のことを話している人を傷つけるおそれがある。
会話の中で
視線より話の内容・事実を確認する
気になることがあれば、視線の印象ではなく、話の内容そのものや裏付けとなる事実を確認する方が確実。
数回の会話で
04距離の取り方と相談先
視線だけで相手を嘘つきと決めつけて問い詰めるのは避ける。お金や契約の不安があるときは、公的な窓口に相談する。
- 自信ありげに目を見て話すからといって、その場で契約や勧誘の内容を信じ切らない。視線は意図的に作れる手がかりで、信頼の証にはならない
- 目を逸らした・そわそわしていたからと相手を問い詰めない。緊張していただけ、人前が苦手なだけということも多く、本当のことを話している人を傷つけるおそれがある
- お金の話に不安があるときは消費者ホットライン(188)、脅しや身の危険を感じるときは警察相談専用電話(#9110)に相談する
05よくある質問
嘘をつく人は目を逸らすというのは本当ですか?
いいえ。158種類の非言語的な手がかりを調べた大規模なメタ分析では、視線回避と嘘の関連はほとんど確認されていません。「目を逸らす=嘘」という思い込みには、研究の裏付けがありません。
逆に、じっと目を見てくる人は信用できますか?
必ずしもそうとは言えません。意図的なアイコンタクトを測った研究(Mannら, 2012)では、嘘をついている人の方が正直な人より、長く目を合わせていたという結果が報告されています。
嘘を見抜く確実な方法はありますか?
現時点の研究では、視線や姿勢などの非言語的なサインだけで嘘を確実に見抜く方法は確認されていません。気になることは、話の内容や裏付けとなる事実を確認する方が確実です。
しぐさ・ボディランゲージ索引で「わざと目を合わせ続ける」を見る
ほかのしぐさも52種類から調べられます。4択クイズもあります。
出典
- DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129(1), 74-118. https://doi.org/10.1037/0033-2909.129.1.74
- Brennen, T., & Magnussen, S. (2020). Research on Non-verbal Signs of Lies and Deceit: A Blind Alley. Frontiers in Psychology, 11, 613410.(Mannらの意図的なアイコンタクトの結果は、本論文で確認。原論文: Mann, S., Vrij, A., Leal, S., Granhag, P. A., Warmelink, L., & Forrester, D. (2012). Windows to the soul? Deliberate eye contact as a cue to deceit. Journal of Nonverbal Behavior, 36, 205-215.) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7767987/
- Patterson, M. L., Fridlund, A. J., & Crivelli, C. (2023). Four Misconceptions About Nonverbal Communication. Perspectives on Psychological Science, 18(6), 1388-1411. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10623623/


